黒澤明監督「用心棒」:世界を魅了した痛快時代劇の魅力

映画

1961年に公開された黒澤明監督の「用心棒」は、時代劇にハードボイルドの要素を取り入れた痛快な娯楽活劇です。主人公・桑畑三十郎くわばたけさんじゅうろうを演じる三船敏郎みふねとしろう。二組のやくざが支配する宿場町を舞台に、鮮やかな剣技と知略で悪を討つ物語は公開当時から観客を熱狂させ、現在いまも国内外で高く評価されています。

あらすじ

風の吹き荒れる寂れた宿場町に、桑畑三十郎が現れます。実はこれも名を問われ、とっさに思い付いた仮名かめいに過ぎず、続編で彼は「椿三十郎」を名乗っています。その町は二つのやくざ勢力、清兵衛一家と丑寅一家が対立し、抗争によって荒廃していました。三十郎は、その状況を冷静に見定め、両勢力に用心棒として雇われることで彼らを互いに争わせ、自滅へと追い込んでいきます。悪党たちの思惑が入り乱れる中、三十郎は卓越した剣術と頭脳を駆使し、町に平和を取り戻していくのです。

 

出演者

* 桑畑三十郎:三船敏郎
* 新田の卯之助:仲代達矢
* 清兵衛の女房おりん:山田五十鈴いすず
* 居酒屋の権爺:東野とうの英治郎
* 新田の亥之吉:加東大介
* 造酒屋徳右衛門:志村たかし

三船敏郎の圧倒的な存在感、仲代達矢のクールな悪役ぶり、共演者も怖れた山田五十鈴による迫真の演技など、俳優陣の熱演が光ります。三船敏郎は本作で、ヴェネツィア国際映画祭主演男優賞を受賞しています。彼らの演技力は世界的に高く評価されました。

世界的な評価

「用心棒」は斬新な映像表現とアクション演出で、世界中の映画監督に衝撃を与えました。

* セルジオ・レオーネ監督は「荒野の用心棒」を制作するにあたり、「用心棒」から多大な影響を受けたと公言しています。「黒澤明監督の映像はまるで絵画のようだ」と絶賛しました。
* クリント・イーストウッドは「荒野の用心棒」で主演を務めた際、「三船敏郎の演技はまさに圧巻だった」と語っています。
* ジョージ・ルーカスは自身の作品「スター・ウォーズ」シリーズの殺陣たてのシーン(ジェダイ騎士)で、「用心棒」を手本にしました。「黒澤明監督の殺陣は世界中のアクション映画の教科書だ」と述べています。
* スティーヴン・スピルバーグは黒澤明監督を「世界の映画界の宝だ」と語り、「用心棒」の映像美とストーリーテリングを高く評価しています。

これらの証言からも、「用心棒」が世界中の映画監督に与えた影響の大きさがうかがえます。

リメイク作品

「用心棒」には数多くのリメイク作品があります。特にセルジオ・レオーネ監督による「荒野の用心棒」は、クリント・イーストウッドを一躍スターダムに押し上げ、マカロニ・ウェスタンというジャンルまで確立しました。その後もウォルター・ヒル監督による「ラストマン・スタンディング」など、時代や舞台を変えながら、その物語は繰り返し再現され続けています。

黒澤明監督「用心棒」制作秘話:リアリズムと革新への挑戦

制作の裏側には黒澤監督の妥協なき姿勢と、俳優・スタッフたちの情熱が詰まった数々のエピソードが存在します。

たとえば物語の冒頭、素浪人がひと気のない宿場町に入ろうとする。不穏な空気漂う中、人間の手首から先をくわえた一匹の野良犬が、通りの向こうから駆けて来ます。その手首のリアルなこと!素浪人の行く先になにが待ち受けているかを、この一瞬で表現し尽くしています。

リアリズムへの徹底的なこだわり

黒澤明監督は「用心棒」のリアリティを追求するために、細部に至るまで徹底的にこだわりました。

本物の豚の死骸

宿場町の荒廃した雰囲気を出すため、セットには本物の豚の死骸が置かれました。これは視覚的なリアリティを高める一方で、撮影現場に強烈な悪臭をもたらし、スタッフを困らせたというエピソードが残っています。それでも黒澤監督は、「本物でなければ、あの空気感は出せない」と譲らなかったそうです。

埃っぽさの演出

宿場町に常に漂う埃っぽさを表現するため、撮影中には実際に埃が撒かれました。これにより映像に独特の質感と臨場感が生まれましたが、演者やスタッフは埃まみれになりながらの作業を強いられたのです。

風の表現

物語の冒頭から印象的に使われる風の描写も、黒澤監督のこだわりによるものです。自然の風だけでなく、扇風機などを用いて風を起こし、宿場町の寂寥感や主人公・三十郎の登場を効果的に演出しています。

三船敏郎の役作りとアクション

主演の三船敏郎は、桑畑三十郎というキャラクターを深く理解し、独自の解釈を加えて演じました。

刀の稽古

三船は撮影前から、熱心に刀の稽古に励みました。その結果、劇中の殺陣シーンではまるで本物の剣士のような迫力とスピード感のある動きを披露し、殺陣師も舌を巻くほどだったと言われています。

即興演技

黒澤監督は三船の演技力を高く評価しており、ある程度のアドリブを許容していました。三十郎が鼻を掻く仕草や独特な歩き方などは、三船自身が役柄を深く掘り下げる中で生まれたものです。

眼光の鋭さ

三船の鋭い眼光は、三十郎のクールで凄みのあるキャラクターを象徴するものでした。撮影中、三船は常に役に入り込み、その眼差しだけで観客を惹きつけました。

革新的な撮影手法

「用心棒」には当時の時代劇として、革新的な撮影手法が用いられました。

望遠レンズの活用

望遠レンズを多用することで、宿場町の全体像や登場人物たちの動きをダイナミックに捉え、画面に奥行きと広がりを与えています。

長回し

要所要所で長回しを採用することで、役者の演技力や場の緊張感を途切れさせることなく伝え、観客を物語に引き込みました。

音楽へのこだわり

佐藤勝が担当した音楽も、「用心棒」の独特な雰囲気を形成する上で重要な役割を果たしています。佐藤はクラシック音楽の素養を基盤としつつ、ジャズ、民族音楽、現代音楽など、幅広いジャンルの要素を柔軟に取り入れています。アクションシーンではリズミカルで勢いのある音楽が興奮を高め、悲しいシーンでは叙情的で心を締め付けるような旋律が、観客の感情を揺さぶります。「用心棒」の音楽はセルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」をはじめとするマカロニ・ウェスタンに、多大な影響を与えました。

スタッフとの信頼関係

黒澤明監督はスタッフとの強固な信頼関係を築きながら、映画制作を進めていました。

あうんの呼吸

長年付き合いのあるスタッフが多く、黒澤監督の意図を的確に理解し、高いレベルで具現化していきます。撮影現場では多く言葉を交わさずとも、意思疎通は充分できていたと言われています。

妥協なき姿勢

黒澤監督は納得のいくまで何度もテイクを重ねるなど、妥協を許さない姿勢で制作に臨みました。当然、スタッフは大変な苦労を強いられます。監督に絶対的な権威があり、最終的に素晴らしい作品が完成することを知っていたので、全員が懸命に対応したわけです。

まとめ

「用心棒」は黒澤明監督と三船敏郎の才能、適材適所の裏方の努力が融合した、映画史に残る傑作です。その痛快なストーリー、迫力あるアクション、そして個性的なキャラクターたちは、時代を超えて多くの人々を魅了し続けています。まだ観たことがないという方は、ぜひ一度ご覧ください。

いさぶろう
いさぶろう

「用心棒」は娯楽映画の集大成です。

個々の背景や心理描写にあまり深入りせず、そうでありながら各々おのおのが何を背負って生きているかが、過不足なく観る側に伝わります。一つ一つの演出やセリフ回し、カメラワークから照明、衣装に至るまで、すべてが的確であって初めて実現が可能だったのでしょう。

黒澤明の知名度は抜群ですが、身近で観たというに人に出会った記憶がありません。日本が世界に誇る究極のエンターテインメントなのに、実にもったいない!まだという方は、ぜひご照覧あれ。

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