【映画レビュー】癒やしの「サモエドスマイル」に注目!小日向文世主演『犬飼さんちの犬』が描く家族の絆

映画

映画『犬飼さんちの犬』は2011年6月25日に公開された、犬を巡る騒動と家族の絆を描いたハートウォーミングなコメディ作品です。

見どころはなんといっても、日本を代表する名優・小日向文世さんが演じる主人公と、真っ白でふわふわなサモエド犬サモン」が繰り広げる心温まる物語にあります。
今回はこの映画が持つたくさんの魅力について、詳しくご紹介してまいります。

物語のあらすじと主人公「犬飼保」の心の旅路

映画『犬飼さんちの犬』の主人公は、苗字が「犬飼」であるにもかかわらず大の犬嫌い犬飼保いぬかいたもつ(小日向文世)さんです。彼は48歳の中年サラリーマンで、離島のスーパーに単身赴任しています。
あまりの忙しさから買ったばかりのマイホームに、一年もの間帰ることができませんでした。
家族とはネットカメラを通じて、毎日一緒に夕食を摂るなどしてかろうじてつながりを保っています。

ある日、犬飼保は仕事のトラブル、具体的には店長の不始末による苦情処理のため、本社への長期出張を命じられます。これは彼にとって、一年ぶりに愛する家族のもとへ帰れる念願の機会でした。
しかし、自宅の玄関で彼を迎えたのはなんと、家族が内緒で飼い始めた真っ白いサモエド犬「サモン」だったのです。

犬飼は驚き、すぐにでもサモンを捨ててくるようにと主張しますが、妻や子供たちから猛反発を受けます。
サモンは犬飼の書斎を寝床にしていました。家族の中心となっている状況に、犬飼は家庭内での自分の“権威”を失ったと感じます。家長としての地位を復活させるため、サモンとの悪戦苦闘の日々が始まりました。
この物語は犬嫌いの主人公がサモンとの交流を通じて、いかにして苦手な犬を克服し、家族との絆を再構築していくかを描いています。
映画版では、テレビドラマ版で語られなかった犬飼が犬嫌いになった理由も描かれており、彼の心の奥深くに秘められた過去が明らかになる点も、見どころの一つです。

監督「亀井亨」が紡ぎ出す温かいヒューマンコメディ

本作の監督は亀井亨です。
亀井監督はそれまでも「AMG動物ドラマシリーズ」として『幼獣マメシバ』(2009年)や『ねこタクシー』(2010年)などの作品を手掛け、動物と人間が織りなすユニークな物語を世に送り出してきました。
一癖ある主人公と動物たちとの組み合わせが定番です。

『犬飼さんちの犬』において亀井監督は、「笑顔」を意識して作品を制作したと語っています。
以前の作品にはやや暗い要素が含まれることもありましたが、本作では明るく心温まる雰囲気が前面に出ています。監督の意図は、犬嫌いの主人公が愛らしいサモエド犬サモンと交流する中で見せる、戸惑いから笑顔へと変化していく姿に如実に表れています。
観客は犬飼保のコミカルな悪戦苦闘を通して、クスッと笑える場面を楽しみつつ、最終的には温かい気持ちに包まれることでしょう。
監督の繊細な演出により、本作は単なる動物映画に留まらず、深い人間ドラマとしても成立しているのです。

脚本「永森裕二」が深掘りする家族の絆と成長の物語

脚本は永森裕二氏が担当しています。永森氏は「AMG動物ドラマシリーズ」の多くの作品で脚本を手掛けており、動物と人間との関係性を深く掘り下げた物語作りに定評があります。

『犬飼さんちの犬』の脚本は単に「犬が可愛い」というだけでなく、犬飼保という一人の男性が家族の中で自分の居場所を見つけ、人間として成長していく過程を丁寧に描いています。
永森氏は本作について、「犬も人も死にません。可哀そうな目にも遭いません。ただ家族になる。その大切さを描いた映画です」とコメントしています。
この言葉通り、物語は悲劇的な要素を排し、純粋に家族の絆が深まっていく様子に焦点を当てています。

注目すべきは映画版で初めて明かされる、犬飼が犬嫌いになった理由です。彼の幼少期の辛い別れの経験が描かれることで、物語に奥行きが加わり、犬飼の心の変化をより深く理解し共感できます。内面の葛藤とそれを乗り越える姿が、私たちに感動を与えてくれるのです。
永森氏の脚本はコミカルな要素と心温まる人間ドラマのバランスが取れており、観客に深いメッセージを届けつつ、軽やかに展開を楽しめるようになっています。

個性豊かな主要登場人物たちとその魅力

主人公「犬飼保」を演じる小日向文世さんの熱演

主人公の犬飼保は、苗字が「犬飼」でありながら大の犬嫌いという設定で、物語にユーモアをもたらします。
小日向さんは犬に戸惑い、悪戦苦闘する犬飼保の姿を熱演しています。

実は小日向さんは、プライベートでトイプードルを飼うほど大の犬好きです。撮影現場では犬が苦手な演技をしなければならないにもかかわらず、愛らしいサモエド犬に思わずデレデレになってしまい、監督から何度もNGが出たそうです。

この「犬嫌いの役柄と実際の犬好き」というギャップが、小日向さんの演技に絶妙なリアリティとコミカルさを加えています。
私たちは彼の犬へのぎこちない対応や、少しずつサモンと心を通わせていく過程を、親近感を持って見守れるのです。
犬飼保が家庭で自身の立場を取り戻そうと奮闘し、サモンとの交流を通じて家族との絆を再確認していく姿は、多くの人の共感を呼びました。

愛らしい「サモエド犬サモン」がもたらす癒し

本作のもう一人の主役は、真っ白でふわふわな毛が特徴のサモエド犬「サモン」です。常に笑っているように見える表情から「サモエドスマイル」と呼ばれ、愛嬌たっぷりの笑顔が最大の魅力です。
小日向さんを起用した理由として、「サモンの笑っている顔と、小日向さんの笑顔が似ているから」とm監督がご本人へ説明されたそうです。

劇中では子犬から成犬へと成長していくサモンの姿が描かれ、その愛らしさは観る人すべてに癒やしを与えます。
サモンは演技をする「名犬」というよりは、マイペースで元気いっぱいに遊ぶ「普通の犬」として描かれており、それがかえってリアルな可愛らしさを際立たせています。
撮影現場ではサモンを演じた犬(チリやカメコなど複数の犬が担当)はとても人懐っこく、小日向さんをメロメロにさせました。
サモンの存在は犬飼保の心を解き放ち、家族全員を明るくする重要な役割を担い、まさに「癒し」の象徴と言えます。

物語を彩る名優たちの存在感

『犬飼さんちの犬』は小日向文世さんとサモンだけでなく、脇を固める個性豊かで芸達者なキャスト陣によって、さらに魅力が増しています。
犬飼保の妻・潤子役には、主婦層に支持が厚いちはるさんが登場。彼女は犬好きの妻として、夫とサモンの間に立つ役割を自然に演じます。

犬飼の部下である鳥飼カエデ役の木南晴夏さんや、スーパーの店長である蓮田喜一郎役の池田鉄洋さん、本社から異動してきた菊田萌子役の徳永えりさんなど、実力派俳優たちが物語にリアリティと彩りを添えています。

特にペットショップの怪しい店員「芝二郎」役で登場する佐藤二朗さんの演技は、観客を大いに笑わせてくれるはずです。彼は過去の動物ドラマシリーズ作品『幼獣マメシバ』と同じ役名で登場していて、小日向さんとのコミカルな掛け合いは大きな見どころの一つです。

これらキャスト陣がそれぞれの役柄を魅力的に演じきることで作品にユーモアと温かさが加わり、単なる「可愛い犬映画」以上の人間ドラマとして楽しめる作品になっています。

主題歌「ワン☆ダフル」が添える感動の彩り

映画『犬飼さんちの犬』の主題歌は、SEAMOさんの新曲「ワン☆ダフル」です。愛犬家であるSEAMOさんが幼い頃に飼っていた犬への深い思いを込めて、作詞・作曲したものです。
家族の一員として愛情を注いだ子犬が成長し、時に困難を乗り越え、最期の時を迎えるまで共に生きた日々が情感たっぷりに綴られています。

小日向文世さんが初めて聴いた撮影現場で感銘を受け、「主題歌はこの曲しか考えられない!」とプロデューサーに強く推薦し、起用されたエピソードがあります。
SEAMOさんも実写映画の主題歌を担当するのは初めてで、決まったことを「夢のよう」だったと喜びのコメントを寄せています。

「ワン☆ダフル」の歌詞は、ペットを飼った経験のある人なら誰もが共感できるような幸せな思い出や別れの悲しさが描かれており、映画のエンディングをより感動的に彩っています。
犬嫌いの主人公が犬と心を通わせていく物語に、愛犬への深い愛情を歌ったこの楽曲が加わることで、映画が伝えたい「家族の絆」や「心の成長」が心に深く響くものになっています。

「AMG動物ドラマシリーズ」の系譜と拡大するプロジェクト

映画『犬飼さんちの犬』は、AMGエンタテインメントが企画・製作する人気「AMG動物ドラマシリーズ」の第5弾にあたります。
このシリーズは2006年の「イヌゴエ」から始まり、「ネコナデ」(2008年)、「幼獣マメシバ」(2009年)、「ねこタクシー」(2010年)といった作品で大成功を収めてきました。シリーズの特徴は犬と猫を交互にテーマにしながら、一癖も二癖もある個性的な性格俳優や、意外性のある芸人を起用している点です。

「犬飼さんちの犬」は連続テレビドラマ版として、2011年1月から4月にかけて東名阪ネット6(tvk、テレ玉、チバテレ、三重テレビ、KBS京都、サンテレビ)や、札幌テレビ放送、TVQ九州放送、ぎふチャンなど、全国9局ネットとひかりTVでのVOD配信で放送され、大好評を博しました。このテレビドラマ版の反響を受けて、映画版の全国公開が決定したという背景があります。
シリーズを重ねるごとにプロジェクトは拡大し、業界からも注目される座組みで展開されていきました。

映画版が公開される2011年6月25日に先駆けて、同年5月21日にはワーナー・マイカル・シネマズ関東地区3館で、テレビドラマ全12話の土日限定無料劇場上映も行われました。このシリーズの成功は動物と人間が織りなす心温まる物語が、多くの観客に支持されていることの証と言えるでしょう。

家族の絆と成長の物語

『犬飼さんちの犬』は犬と人間の交流だけでなく、家族の絆と主人公の成長が描かれています。
犬飼保が家庭で自らの立場を取り戻そうと奮闘する姿に、多くの父親が共感できるはずです。最初は犬に対して拒否する態度を取る犬飼ですが、サモンの存在によって家族のあり方や自身の人生と向き合うことになります。

仕事でのトラブルやかつて犬嫌いになったルーツを知る旅を通して、犬飼は少しずつサモンと心を通わせ、最終的には深い絆で結ばれていきます。
この変化は、彼が単に犬嫌いを克服するだけでなく、家族の一員としての新たな「居場所」を見つけ、精神的に大きく成長していく物語なのです。

真っ白でふわふわなサモンの笑顔は、物語全体を優しい笑いに包み込み、観る人に癒やしと温かい気持ちを与えます。犬好きの方にはもちろん犬が苦手な方でも、この映画を通して犬の魅力や生き物と共生することの喜びを感じることができるはずです。

長い単身赴任からせっかく我が家に帰れた犬飼でしたが、一つのプロジェクトが終了し、社長から再び離島への転勤を命じられます。
いよいよ、ラストシーン。目的の地に向かうフェリーの甲板に犬飼の姿がありました。そして彼の隣に寄り添っていたのは…

この映画は私たちに「笑顔の源は何か」と問いかけるような、心温まる一作です。ぜひ『犬飼さんちの犬』をご覧になって、犬飼とサモン、そして家族が織りなす感動の物語を体験してみてください。

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