未来を切り拓く産業創出の機会

「人生百年時代」と聞くと、あなたはどんな気持ちになりますか。
多くの人が、医療の進化のおかげで長生きできるようになったことに感謝しつつも、心の奥底で漠然とした不安を感じているのではないでしょうか。「お金は足りるのか?」「体が動かなくなったらどうなるのだろう?」「誰も看てくれる人がいなかったら?」。こうした不安は、あなたひとりのものではありません。
なぜなら日本は、いま世界のどの国も経験したことのないスピードで「超高齢社会」の頂点へと突き進んでいるからです。2023年時点ですでに、人口のおよそ3割にあたる二八パーセント以上が六十五才以上の高齢者です。国際連合の定義によれば、これは「超高齢社会」にあたります。
長生きは素晴らしいことです。しかし、統計の数字が教えてくれる無視できない厳しい現実があります。
私たちが目指すべきなのは、ただ長生きすることではありません。「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を示す健康寿命をいかに延ばすか、その中身こそが重要です。
世界保健機関(WHO)の最新統計(2021年)によると、日本人の平均寿命は世界一の八十四・三才ですが、平均寿命と健康寿命の差は「九・三年」もあると報告されています。
調査が実施された世界百三十一カ国中、日本はこの指標で六十位という衝撃的な結果でした。
この九・三年の差は、人生の最後に誰かの助けや医療のサポートが必要になるかもしれない時間です。この事実が、私たちに大きな不安を投げかけます。
もしこの九・三年が、あなたの親友や、大切なお父さん、お母さんの人生に横たわる「不健康な時間」だとしたら、どう感じますか?
この厳しい現実に目を背けず正面から向き合い、未来を希望に変える「戦略」を練る事が必要です。長寿社会が「課題」として語られてしまう背景には、「高齢者はもう役割を終えた人たち」という従来の古い考え方があるからかもしれません。しかし長寿社会は本来、人類が夢見た「成功の証」なのです。
東大発スタートアップの代表である森山穂貴さんが言うように、この超高齢社会は「危機」ではなく、「未来を切り拓く産業創出の機会」として捉えるべきです。
この記事では公的機関のデータ、専門家の洞察を最大限に活用し、私たちが直面している問題の本当の原因と、今日からでも始められる具体的な行動ステップをお伝えします。
これは国や政治の話だけではなく、あなた自身の、そしてあなたの家族の「生き方」の物語です。この記事を読み終える頃には長寿社会への見方が変わり、未来への一歩を踏み出す勇気が湧いてくる事を約束します。
その不安、実は「みんなの物語」かもしれない

先ほどの平均寿命と健康寿命の九・三年の差。これは人生の最終盤で、「自分らしい生き方」が制限されてしまうかもしれない期間です。
この九・三年問題の影は、私たちのすぐそばに落ちています。たとえば仮に、あなたの近所に住むBさんのケースを想像してみてください。
Bさんは六十七才。本当は定年後にゆっくり趣味に打ち込みたかったけれど、年金だけでは心もとなく、再雇用で働き続けています。彼は今の日本が「生涯現役社会の構築」を後押ししていることは知っています。しかしいざ働いてみると、六十才以降の賃金は以前と比べて著しく低下し、生活は決して楽ではありません。
さらに彼の会社には、二十代や三十代の若い社員もいます。彼らと話すたび、どこか距離を感じてしまいます。なぜならテレビやインターネットでは「高齢者優遇の政治、シルバー民主主義だ」「現役世代がすべての負担を背負っている」といった声が飛び交っているからです。
Bさんは自分も若い頃は必死で働いてきたし、税金や社会保障費を納めてきた自負があります。しかし今や自分は「若者と子供を潰そうとしている」側の人間と見られているのではないか、と心のどこかで揺らぎを感じてしまうのです。
もし、あなたがこのBさんの息子さん、娘さん、あるいは親友だとしたら、彼にどう声をかけますか?
彼が本当に求めているのは、お金だけではないはずです。それは「社会とのつながり」であり、「自分にもまだ価値がある」と感じられる「生きがい就労」の場、そして何より「誰にも迷惑をかけたくない」という、日本人が深く抱える感情的な願いなのではないでしょうか。
このBさんの物語は、特殊なものではありません。労働力不足が深刻化する中で、働く高齢者の数は九百三十万人で過去最高を更新していますが、その多くが「働かざるを得ない」という実感を抱いています。
私たちはこの「高齢者=お荷物」という悲観的な見方を打ち破り、「長寿化を新たなチャンス」と捉える新しい物語を自分の人生の中に、そして社会の中に描く必要があります。
悲観的な未来を呼ぶ構造と心理。データが示す「限界構造」の正体

私たちが長寿社会をネガティブに捉えてしまうのには、明確なデータに基づいた理由があります。現在の日本の社会システムは、残念ながら右肩上がりの人口増加と経済成長を前提として設計されているため、人口ピラミッドがひっくり返った現代において、無理が生じているのです。
ここでは、公的資料から明らかになった「限界構造」を生み出す、データ面と心理・社会構造面の原因を見ていきましょう。
データ面:誰も逃れられない「二〇四〇年問題」の影
私たちが特に注目しなければならないのは、二〇四〇年というターニングポイントです。
この頃には高齢者の人口の伸びは落ち着きますが、それを支えるべき現役世代(担い手)は急激に減少します。結果として、国全体が極度の「労働力制約」に直面します。
社会保障費の膨張
二〇四〇年には日本人口の三五パーセントが六十五才以上となり、医療・介護給付費は七〇兆円、社会保障費全体では一九〇兆円規模に膨らむと予測されています。
担い手不足の深刻化
医療・福祉サービスの確保は最も深刻な課題です。労働力制約が強まる中で、二〇四〇年には全労働人口のおよそ五分の一(約二〇パーセント)が医療・介護に従事している必要がある、という試算もあります。この担い手不足は、改革が進まない限り解消しません。
二〇二五年問題と単身世帯の増加
団塊の世代が全員七十五才以上の後期高齢者になる二〇二五年頃に、医療や介護への需要がさらに急増します。さらに二〇四〇年には単身世帯が三九・三パーセントまで拡大し、最大の世帯類型になると予想されており、孤独や社会的孤立の問題、介護の担い手不足を一層深刻化させます。
地域間の格差の拡大
この問題は一律ではありません。二〇四〇年頃には、大都市圏で医療・介護需要が爆発的に増加する一方で、地方では病院や介護事業所の撤退が生じる可能性があります。二〇三〇年頃までに、地方では総人口が約一五パーセント減少する見通しです。住む場所によって受けられるサービスの質に、格差が生じるリスクがあるのです。
これらの数字は、私たちが未来を「より少ない人手でも回る現場」に作り変えるか、それとも「システムが立ち行かなくなる」のを見過ごすかの、瀬戸際に立たされていることを示しています。
心理・社会構造面:連帯感を失わせる「世代間の対立」

なぜ、こんなに大変な状況にもかかわらず、抜本的な改革が進まないのでしょうか。その根底には社会全体に根付いてしまった古い構造と、人々の心理的な課題があります。
まず、政治的な構造として「シルバー民主主義」の問題があります。民主主義の基本理念は「一人一票」と「多数決」ですが、少子高齢化が進む日本では有権者の高齢化が進み、高齢者重視の政策に偏りがちになってしまいます。
結果として、現役世代が負担する社会保険料は賃金を上回るペースで上昇し続けており、若者からは「世代間格差」への不満が噴出しています。
「人口の多い高齢者の社会保障に使われた費用を、人口の少ない若者現役世代が支える制度に多くの不満の声。高齢者が若者と子供を潰そうとしている」
こうした感情的な対立は、社会の連帯を蝕みます。一橋大学の小塩隆士教授や東京工業大学の宇佐美誠教授らの意見にもあるように、公的年金制度の公平性を考えるにあたり、世代だけでなく所得や資産も軸に含めた、個人単位での再配分の議論が必要です。しかし、安易な「世代論」が横行することで、貧しい高齢者もいるという現実や複雑な構造が見えづらくなってしまいます。

さらに、私たち自身の未来への意識にも問題があります。
老いへのネガティブな視線
人生百年時代に対する意識調査(二〇二四年)では、日本人は「百年まで生きたい」という気持ちが、調査対象の六カ国で最も低い三割未満でした。その理由として、「迷惑をかけたくない」「大変そうに見える」など、ネガティブな側面にばかり注目していることが挙げられています。
「学び」への意欲の低さ
人生百年時代を生き抜くには、テクノロジーの進歩や労働市場の変化に対応するため、継続的な学び直しが不可欠です。しかし日本では、主体的に学習している社会人の割合が約五〇パーセント程度に留まり、他の先進国と比べて低い水準にあります。この学習意欲の遅れは、「稼ぐ力」の強化や新しいキャリアの構築を阻害します。
経済的な不安定さ
高齢者が「働かざるを得ない」現状の背景には、従来の年金制度に頼るだけでは六十五才から百才までの三五年間で必要とされる約一億円以上の老後資金をまかなうことが難しいという、現実的な課題があります。さらに六十才以降の著しい賃金低下が、老後の生活への不安を増幅させています。
高齢化は経済成長が鈍化し、社会システムが人口増加時代に適応したままであるという構造的な課題の表面化なのです。
危機を希望に変える「老い方」の洞察と未来の実例

私たちが長寿社会を乗り越える鍵は、悲観的なデータに怯えることではなく、「老い方」そのものを変えるための、新しい価値観と具体的な行動にあります。専門家は、この危機を「成長のチャンス」と捉えるよう促しています。
専門家の洞察:「介護は未来をつくる“始まりの産業”」
この超高齢社会を「危機」ではなく「機会」と捉え直す提言が、東大発スタートアップ代表の森山穂貴氏によってなされています。彼は祖母の介護事業に携わった経験から、介護を新しい視点で見つめ直しました。
「介護は日本の未来を切り拓く次の産業である」
「介護は“終わり”の領域ではなく、“始まりの産業”です」
森山氏は超高齢社会を「社会イノベーションの源泉」と捉え、介護を単なる社会保障制度ではなく、「人の生き方と街のかたちを変える産業」として再定義しています。彼が目指すのは一部の専門家ではなく、すべての「未来を一緒にデザインする皆さん」に、この発想を共有することです。
ウェルネス研究の第一人者である琉球大学の荒川雅志教授は長寿の中身について、衝撃的な事実を指摘します。
「長寿の要因のうち遺伝子に左右されるのはわずか二五パーセントで、あとの七五パーセントはライフスタイルや日常生活で選択する習慣に関わっている」
この洞察は私たちの未来が持って生まれた運命ではなく、日々の「選択」によって作られることを示しています。教授は日本が長寿世界一を達成した今、「生きがいある健康長寿をいかに達成するかが問われている」と強調します。大切なのは長生きの中身、活き活きと輝く日々を過ごしながら長生きすることなのです。
宗教学者の島田裕巳氏の指摘も、私たちが長寿化によって見失った「心の支え」について考えさせてくれます。
平均寿命が短かった七〇余年前は乳幼児の死亡率も高く、「いつまで生きられるかわからない」という考えから、人々は宗教に心の支えを求めていました。しかし、めざましい経済成長と医療の発展により長寿社会が到来し、人々の死生観が変わり、宗教への期待が薄らいでしまったのです。長く生きる人生の苦しみや不安を、私たちは何を心の支えにして乗り越えれば良いのでしょうか。
思考実験:もし「健康寿命の延伸」を諦めたら?
ここであえて、私たちが長寿化をネガティブに捉え続け、「健康寿命の延伸」という努力を放棄した場合、何が起こるかという思考実験をしてみましょう。
健康寿命を延ばすことは、個人の生活の質の向上(QOL)に直結するだけでなく、実は社会保障費用の抑制にも繋がるという明確な経済的メリットがあります。
もし私たちが九・三年もの「不健康な時間」を仕方ないものとして受け入れ、そのまま社会保障費の増加を放置したらどうなるでしょうか。
長寿化が日本経済にもたらした経済価値は、過去数十年の累計で五千七百六十六兆円にも及ぶという試算があります。この莫大な価値は、健康の維持があって初めて享受できるものです。
健康寿命の延伸を諦めることは、この経済的な恩恵を失うだけでなく、医療・介護需要の急増を招き、現役世代の負担増を加速させます。
健康寿命の延伸のみで社会経済上の諸課題を解決できるわけではありませんが、健康で働き得る高齢者が増えることは、雇用環境が整えば実際の労働力確保にも繋がり、社会全体の活力を維持する上で重要です。
結局、長寿社会で誰もが幸せに生きるためには、医療・介護の改革と同時に、すべての世代が健康で長く活躍できる環境づくりこそが、最も経済合理的な戦略なのです。
未来を築く具体的な成功事例
では、この新しい「老い方」を体現し、課題を技術と連帯感で乗り越えている具体的な事例を見てみましょう。
テクノロジーによる「社会参画」の実現:オリィ研究所のOriHime-D
介護や病気によって外出が困難になった時、人は社会とのつながりを失い、孤独に陥りがちです。しかし、オリィ研究所が開発した分身ロボット「OriHime-D」は、この課題に光を当てました。
このロボットは、外出困難な人のテレワークを可能にします。
これは単なる便利ツールではありません。テクノロジーを活用することで、どんな状態であっても「誰もが社会参画できる」環境を実現する、まさに「テクノロジーによるインクルージョン/ダイバーシティ」の成功例です。人は場所や身体的制約にかかわらず、その人なりの価値を社会に届けることができるのです。
介護現場の生産性革命:Aeolus Roboticsとスマート化
迫りくる医療・介護の担い手不足に対し、現場の生産性を高める取り組みも進んでいます。Aeolus Roboticsのヒューマン支援ロボットは、この現場の革新を支える一例です。
二〇四〇年の目標として、医療・福祉分野で単位時間当たりのサービス提供を五パーセント以上改善(医師は七パーセント以上)することが掲げられています。その達成のためには介護専門職が担うべきコア業務に重点化できるよう、ベッドメイキング、食事の配膳、ケア記録の入力といった間接業務をロボット・AI・ICTで自動化・省力化することが不可欠です。これにより、現状の供給力でも現場を楽に回せるようにし、専門職が利用者と向き合う時間を増やすことができます。
人生七五パーセントの教訓:ブルーゾーンの「つながり」
世界に五カ所存在する「百歳人(センテナリアン)」が多く暮らす長寿地域、ブルーゾーン。
彼らは特別な医療を受けているわけではありません。長寿の秘密として実証したのが、「つながり」の力です。
荒川教授は、人の長寿要因は「社会とのつながり」が最も重要な要素であると研究報告されていると指摘します。ブルーゾーンの百歳人たちに共通するのは、家族とのつながり、友人知人とのつながり、地域社会とのつながりが強固であることです。彼らは相互扶助を大切にし、お互いに支え合うことが精神的な安定をもたらし、生きる気力となっています。
長寿の要因の四分の三を占めるライフスタイルには、適度な運動や植物性食品といった健康法とともに、「家族を最優先にする」「人とつながる」という人間関係のルールが含まれているのです。
未来を共にデザインするために。今すぐ始める希望の行動ステップ
長寿社会の課題を乗り越え、誰もが「これでいい」と自然に思える幸せな社会を実現するためには、政府や大企業だけでなく、私たち一人ひとりが「未来を一緒にデザインする皆さん」になる必要があります。
荒川雅志教授の言葉のように、七五パーセントの未来は私たちの選択で決まるからです。
ここでは公的な計画や専門家の提言に基づいた、当事者(高齢者自身や現役世代)と支援者(企業、行政、介護従事者)が今日からできる具体的な行動ステップを提示します。
当事者・個人向けの行動ステップ
健康寿命の延伸を「自己投資」と捉える
長寿化の要因の多くはライフスタイルです。二〇四〇年までに健康寿命を男女ともに三年以上延ばし、七十五才以上を目指すという目標を、国任せにせず自分の目標にします。
特に、食事や運動、睡眠といった予防医学の観点からの健康管理と生活習慣の改善に取り組みましょう。健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進が重要とされています。
例えば、健康的な行動を無理なく選べるようにする行動経済学(ナッジ理論)の活用が有効です。
生涯学習で「稼ぐ力」を磨き、キャリアを再設計する
人生百年時代は、キャリアの「マルチステージ化」が不可欠です。従来の「教育⇒仕事⇒引退」の三ステージから脱却し、継続的な学び直しを行い、時間単価を意識した能力開発で「稼ぐ力」を高めましょう。高齢になっても、自分の知識や経験を社会に還元できる新たなキャリアを選択する余地は増えています。
「つながり」を意識的に確保・拡充する
ブルーゾーンの教訓の通り、「社会とのつながり」は最も重要な長寿要因です。孤独や社会的孤立を防ぐため、「通いの場」への参加やボランティアなどの地域社会活動に積極的に参加しましょう。高齢者自身が、地域コミュニティの「担い手となって参画する機会」を充実させることが期待されています。
「金融リテラシー」を向上させ、長期的な資産形成を始める
六十五才から百才までの三五年間で約一億円以上の資金が必要となる試算があるように、年金頼みのマネープランは限界です。高齢者層の不安の高さが示す通り、金融に関するリテラシーは「健康」に並んで重要です。「稼ぐ」「貯める」「増やす」の三つを組み合わせた長期的な資産形成戦略が必要です。
テクノロジーを使いこなし「選択肢」を広げる
介護や健康管理において、デジタル技術(ICT、AI)は「生活を豊かにする選択肢」となります。ミツフジ社のスマートウェアのように生体データが取得できる機器や、介護情報基盤「EEFUL DB」などを活用し、「自分に合ったケアを主体的に選べる環境」を整えましょう。
支援者・社会構造向けの行動ステップ
医療・福祉の生産性を飛躍的に高める「スマート化」を推進する
国は二〇四〇年までに医療・福祉サービス分野で生産性を向上させるため、業務の仕分け、テクノロジーのフル活用(ロボット・AI・ICT)、元気高齢者の活躍促進、組織マネジメント改革の四つの改革を通じて生産性の向上を図ると定めています。
特に、夜勤業務や記録入力といった間接業務を技術で代替し、専門職がコア業務に集中できる環境を作ることが求められます。
高齢者を「福祉的雇用」ではなく「戦力」として位置づける
労働力不足時代において、高齢者は企業活動の中核を担う貴重な戦力です。
企業は、高齢者雇用を改正高齢者雇用安定法による義務(福祉的雇用)としてではなく、後進の育成や人手不足緩和のための重要な人材として位置づけ、賃金低下が著しい現状を改善し、適切な経済処遇を実現することで、シニア市場の消費拡大にも繋げます。

社会保障の「全世代型」への改革と公平性の確保を進める
社会保障制度は世代間の公平性を確保し、持続可能な財政構造へ改革する必要があります。
具体的には、高所得の高齢者の負担増や、後期高齢者(七十五才以上)の窓口負担割合の原則二割への引き上げなど、所得・資産に基づいた応能負担の導入を検討することが重要です。
予防と連携を強化する「次世代ケア」のエコシステムを創出する
二〇四〇年の理想的な姿は、「人と先端技術が共生し、一人ひとりの生き方を共に支える次世代ケア」の実現です。これは、医療、介護、住宅、金融、テクノロジーといった分野を超えた社会保障を超えた連携(ヘルスケアエコシステムの創出)を意味します。健康のリスク予測(医療情報や購買履歴からの認知症の兆候検知など)に基づいた早期介入など、データを活用した個別化されたサービス提供が鍵となります。
認知症を含むフレイル対策と社会的な「気づき」の仕組みをつくる
要介護になった主な原因の一つである認知症(一八・一パーセント)や、その前段階であるフレイルへの対策が急務です。認知症の予防法の確立に向けたデータ収集や、認知症の人との共創による製品・サービス開発(オレンジイノベーション・アワード)を推進し、「共生」と「予防」を柱とした施策を強化します。また、個人や社会全体で「不調に気づき、支え合う」ことができるようなサポート技術の開発も重要です。
長寿は「成功の証」。共に創る希望あふれる社会へ

長文を読んでくださり、本当にありがとうございます。
私たちが「人生百年時代」について話すとき、どうしても社会保障の「課題」や「限界構造」といったネガティブな言葉に引きずられがちです。しかし今日、私たちが確認したように長寿社会の到来は、日本経済社会の「成功の証」であり、人類が長年夢見てきた社会の実現なのです。
たしかに二〇四〇年を見据えると、一九〇兆円規模に膨らむ社会保障費や、深刻な担い手不足という厳しい現実に直面しています。現役世代が「シルバー民主主義だ」と不安を感じるのも無理はありません。
しかし、私たちには希望があります。
第一に、私たちの未来の七五パーセントは遺伝子ではなく、「ライフスタイルや日常生活の選択」によって決まります。予防と健康づくりを自己投資と捉え、ブルーゾーンの百歳人が実証したような「人とつながる」豊かな生き方を意識的に選ぶことで、九・三年もの不健康な時間を短縮し、個人が自立した幸せな老後を実現できます。
第二に、この危機は「未来を切り拓く次の産業」を生み出すチャンスです。AIやロボット、ICTといった先端技術は専門職を間接業務から解放し、誰もがどんな状態であっても社会参画できるインフラを構築し始めています。
私たちは高齢者を「お荷物」としてではなく、豊かな知恵と経験を持つ新興マーケットの主役、そして社会を支える「人財」として位置づけ直す必要があります。
私たちがこれから目指すべき社会は、誰か一方が「支える側」になり、もう一方が「支えられる側」になる、一方向の関係ではありません。
今後は誰もが支え手になり、共に助け合う「ネットワーク型」へと、社会のつながりを進化させることが求められています。
長寿化の課題は、私たちに「世代を超えた思いやり」と「多様性を受け入れ合う」新しい連帯感を求めています。
私たちが今日、この知識と洞察を共有し、明日からの「選択」を変えること。それがこの国を「課題先進国」から「希望の長寿社会」のモデルへと変える力になります。
長寿社会を生きる一人ひとりが生涯学習を通じて、元気で魅力ある「幸齢者」として充実した人生を過ごせるよう、共に未来をデザインしていきましょう。
この長い旅路を、不安ではなく、希望と連帯感をもって共に歩みましょう。


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