混沌と情熱の傑作!ミンガス『黒い聖者と罪ある女』(バレエ、オーケストレーション、時代背景)

ジャズ

ジャズを聴き始めたばかりの方も、長年の愛好家の方も、チャールズ・ミンガス(Charles Mingus)という名前なら耳にされたことがあるはずです。
しかし、彼の作品群の中でも特に異彩を放ち、「史上最高のジャズ・レコードの一つ」と称されるアルバム『黒い聖者と罪ある女The Black Saint and the Sinner Lady, 略してBSSL)』を、あなたはどこまで深く知っているでしょうか?

このアルバムは聴く人によって「巨大で、混沌としていて、素晴らしい」と感じられる一方で、「音が実に不快だ」「ゾウが工場の床を踏みつけて機械を破壊しているみたい」という極端な感想も引き出す、規格外の傑作です。

この記事では、初めての方でもこの「異形の芸術」を楽しむための基本的な情報から、愛好家も唸る歴史的背景や革新的な制作秘話までを徹底的に解説します。
この記事を読むことで、あなたはミンガスの深い世界観と、ジャズの持つ無限の表現の可能性を再認識し、この混沌とした音楽の中に秘められた「美しさ」「真実」を見つけることでしょう。

複雑な構成とアレンジのオーケストラ作品

『黒い聖者と罪ある女』は1963年1月20日に録音され、同年7月にImpulse! Recordsからリリースされました。この作品は、ベーシスト、作曲家、バンドリーダーとして知られるチャールズ・ミンガスのキャリアにあって「オーケストレーションにおける最大の成果の一つ」と広く評価されています。

このアルバムは、しばしばアヴァンギャルド・ジャズやサード・ストリーム、エクスペリメンタル・ビッグバンドといったジャンルに分類されます。しかし、ミンガス自身はライナーノーツでこの作品を、「ダンスとリスニングのために書いた」音楽であり、「エスニック・フォーク・ダンス・ミュージック」として売り出すことをレーベルに認めさせました。

最初は難解に響くかもしれませんが、この作品の「情熱的でダイナミックな表現」「物語性」に引き込まれるポイントを解説します。

「ダンスのための音楽」としての基本構造

ミンガスは、ジャズからダンスが失われたことによって「彼らはジャズを殺した」と発言しており、聴衆に席から立ち上がって踊るよう促すため、5ドル札を掲げたエピソードも残っています。

BSSLは、当初、バレエ音楽として構想された単一の連続した組曲です。レコードのA面(Track A〜C)、B面(Medley: Mode D〜F)に分かれて収録されていますが、全体で約40分に及ぶこの組曲は、バレエのシーンのように感情の起伏や物語の展開を鮮やかに描き出します。

この組曲の構造的な特徴を知ることで、音楽の「流れ」を掴みやすくなります。

テーマとモチーフの反復(ループ):この曲の大部分(約58%)は、ごく短いコード(通常2つ)と書かれた素材で構成される「ループ・セクション」でできています。これらのループやモチーフが、荒々しい即興や混沌とした演奏を落ち着かせる「コーラス」のような役割を果たします。

急激なテンポ変化:アッチェレランド(加速)ルバート(テンポを自由に変える)といった手法が頻繁に使われ、聴く者を飽きさせません。緊張が高まり、突然緩やかな展開に切り替わる瞬間は、ドラマのようです。

感情の「オアシス」:熱狂的なループ・セクションの合間に、「バラード・セクション」が挿入されます。比較的、厳密に作曲されていて、聴く者に安らぎを与えます。

感情の嵐を体現する特異な楽器たち

BSSLは11人編成のバンドで演奏されましたが、その編成が実にユニークで、感情の表現を豊かにしています。特に印象的なのが、ジャズでは珍しい楽器の多用です。

楽器名 演奏者 楽曲における役割と聴きどころ
クラシック・ギター ジェイ・バーリナー (Jay Berliner) スペインの異端審問やエル・グレコが描く抑圧された貧困と死のムードを映し出すために、意図的に導入されました。突如現れるイベリア半島風のフレーズが強烈な印象を与えます。
チューバ/コントラバス・トロンボーン ドン・バターフィールド (Don Butterfield) 音楽に豊かさと深みを与えています。チューバやコントラバス・トロンボーンの「鋸で缶を切り裂くような」ざらついた低音の響きは、不協和音的な混沌を演出します。
アルト・サックス チャーリー・マリアーノ (Charlie Mariano) 曲全体に「苦痛、熱狂、不屈の信念」を伝える、感情的で心を揺さぶる演奏が際立っています。ミンガスは、彼が「魂の叫び」を表現できると信頼していました。
トロンボーン クェンティン・ジャクソン (Quentin Jackson) デューク・エリントン楽団で活躍した人物で、プランジャーミュート(お椀型のミュート)を使ったブルースフィーリング溢れるサウンドが、デューク・エリントンへのオマージュを感じさせます。

聴き方のヒント

感情の起伏に注目する:この作品はミンガスの自伝的要素や人種的不公正に対する怒りや自由への渇望を反映しているため、音楽の暴力性、醜さ、そしてその中の美しさといった「ありとあらゆる感情の表現」として耳を傾けてみましょう。

物語を想像する:組曲の各パートには、「Track A – Solo Dancer: Stop! Look! And Listen, Sinner Jim Whitney!(止まれ!見ろ!そして聞け、罪人ジム・ホイットニー!)」「Mode F – Group And Solo Dance: Of Love, Pain, and Passioned Revolt, then Farewell, My Beloved, ’til It’s Freedom Day(愛、痛み、そして情熱的な反抗、愛しい人よ、さようなら、自由の日まで)」といった詩的な副題がつけられています。
これらのタイトルを参考に登場人物(聖人、罪ある女性)の心情や行動を想像しながら聴くと、より深く楽しめます。

リズムの幻惑を楽しむ:「ジャズワルツ」である3/4拍子を基調としながら、4/4拍子のように聞こえる「偶数性」を取り込もうとするミンガスの複雑なリズム・アプローチの「幻惑」を楽しむのも一興です。

ミンガスの革新性と時代背景を深掘り

『黒い聖者と罪ある女』は単なるジャズアルバムではなく、ミンガスがそのキャリアを通じて抱えてきた「作曲家としての苦悩」「社会への批判」、そして「録音芸術の革新」が結晶化した作品です。

創作の意図:「生きた墓碑銘」としての組曲

ミンガスはこの作品を、「私の生きた墓碑銘(living epitaph)、生誕からバード(チャーリー・パーカー)とディズ(ディジー・ガレスピー)を初めて聴いた日までのものだ」と表現しています。彼が人生で経験した個人的な葛藤や社会への不満を、音楽によって昇華させようとした魂の自伝的な旅の記録であり、「意味のあるカタルシス」をもたらしたのです。

🗣️「この音楽は、私が社会で生きる中で包括した、スタイルと小さなひらめき(アイデア)の波の、小さな一滴にすぎない。社会は、檻の中にいなければ正気だと自称するが、私たちのリーダーが企てることに比べれば、檻の中の方がまだ半分の狂気で済むだろう」 ミンガス自身の言葉

当時、ミンガスは精神的な問題を抱え、一時的にベルビュー病院の精神科病棟に入院していました。その時の経験に基づいた、社会の「狂気」に対する強烈な批判です。「私は(ベルビューから)出られた。だから、どうやって聴くか聴いてみろ。このレコードをかけろ」と語り、自身の音楽を「救い」として提示しました。

さらにミンガスは、彼の心理療法士であったエドムンド・ポロック博士(Dr. Edmund Pollock)にライナーノーツを書かせており、これはジャズアルバムとしては異例中の異例です。

🗣️「彼は強烈に感じている。彼は愛するが故にひどい痛みと苦悩を感じていると、人々に伝えようとしている。一人でいることを受け入れられず、愛し、愛されたいと願っている。彼の音楽は受容、尊敬、愛、理解、仲間意識、自由を求める叫びである――人間の悪を変え、憎しみを終わらせるための嘆願なのだ」 ポロック博士の分析

ポロック博士はこの組曲のテーマが、「黒人男性が孤立しているのではなく、全人類が自由と人権を制限するあらゆる社会に対して革命を起こすために団結しなければならない」と伝えていると解釈します。

隠された真実:タウンホールの大失敗とImpulse!との出会い

BSSLの成功はその数ヶ月前に起こったキャリア最大の失敗、1962年10月のニューヨーク・タウンホール・コンサートの「大惨事」の上に成り立っています。

タウンホール公演は、ミンガスが長大で野心的な曲(後に『エピタフ』として完成)をビッグバンドで録音するために企画されましたが、締切が厳しすぎたことリハーサル時間が不十分だったこと準備不足、そして音響バランスの悪さが重なり、大失敗に終わりました。
ミンガスはその場で激昂し、精神療法士を呼ぶほどの混乱となり、観客が返金を要求し、警察が呼ばれるという大混乱となりました。
このコンサートとその後に編集されたアルバムは、批評家から酷評されました。

しかし、この「大失敗」を聴きに来ていた観客の中に、ABC/Paramountの新しいジャズ・レーベル Impulse! のプロデューサー、ボブ・シール(Bob Thiele)がいました。シールはミンガスの音楽を気に入り、彼にレコーディング契約をオファーします。
ミンガスはライナーノーツで、
「批評家たちが私のために音楽を書いた人々を怯えさせた時に、私の音楽を聴き、気に入り、あなたの会社で録音するために私のバンドを雇ってくれたことに感謝する」と、シールの支援に感謝を表明しています。

このImpulse!でのレコーディングは、ミンガスに「完全な自由」「十分な予算」をもたらし、結果としてBSSLという傑作を生み出す土壌となりました。

録音技術の革新:スタジオを「楽器」として使う

BSSLが革新的であるもう一つの理由は、ミンガスがスタジオ録音の技術を大胆に使用した点です。当時のジャズでは一般的ではなかった、オーバーダビングとクリエイティブな編集(スプライシング)が、作品の性質を決定づけました。

オーバーダビング(重ね録り):アルバムは1963年1月20日のたった1日で録音されましたが、ミンガスは後日スタジオに戻り、チャーリー・マリアーノ(Charlie Mariano)にアルト・サックスのソロを自由に即興で追加させました。
マリアーノはミンガスの指示に従い、書かれたアルト・ジャズのパートは全くなかったにもかかわらず、「私が指さしたら演奏を始め、私が手を振ったら止める」という方法で、後からすべてのパートを吹き込みました。

クリエイティブな編集:プロデューサーのボブ・シーレは、録音後に「文字通り50箇所のテープのつなぎ合わせ(スプライシング)が必要だった。それらはすべてチャーリーの頭の中にあった」と語っています。
アナログテープの編集は剃刀の刃でテープを切断し、特殊な接着テープでつなぎ合わせるという外科的な作業であり、ミンガスはスタジオ・エンジニアのボブ・シンプソン(Bob Simpson)の
「忍耐強さ」に感謝しています。

ミンガスはこれらの技術を駆使して、まるでスタジオ自体を一つの楽器のように扱い、作品の最終的な形を形作りました。これは後のマイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー(Bitches Brew)』など他のジャズの傑作にも影響を与えた、時代を先取りしたアプローチでした。

Q&A形式で読み解く:ミンガス音楽の複雑性

ミンガスの音楽が持つ特異性について、愛好家なら深く掘り下げたいポイントをQ&A形式でまとめます。

Q. ミンガスはなぜデューク・エリントンと比較されるのですか?

A. ミンガスはエリントンを「偶像」として敬愛し、音楽の範囲と想像力においてエリントンに次ぐ「真の後継者」と見なされています。彼はエリントンが実践した、「ソリストの個性に合わせて曲を書く」というコンセプトを採用しました。BSSLにおいてもブルースのミュートトランペットの使用など、エリントン的な要素が多く見られます。ミンガスの編曲はエリントンと同様に、「低音域の響きや内側のハーモニー」に対する深い洞察に基づいています。

Q. 「混沌」や「不協和音」は意図的なものですか?

A. はい、意図的です。この作品は黒人教会で聞かれる熱烈な叫びを模倣したり、人種差別的な社会が黒人にもたらした暴力を表現している場合があります。音楽が「カオスに崩壊する寸前」に聴こえる瞬間は、ミンガスの怒りや激しい感情を表現しています。この「醜い部分でさえも惹きつける美しさ」が、このアルバムの魅力だと言う愛好家も多いのです。

Q. 作曲と即興のバランスはどのように取られていたのですか?

A. ミンガスは楽譜を書かず、ベースやピアノでパートを歌ったり弾いたりして、ミュージシャンに曲を教えることが多くありました。BSSLにおいては、即興と作曲の境界があいまいです。彼は演奏の自由を許しつつも、即興が「書かれたパートの範囲内で自由に出入りできるように」しました。彼のバンド「ジャズ・ワークショップ」はその場でアイデアを伝え、ミュージシャンの個性を引き出す「ラディカルな参加型民主主義」の場でした。

Q. なぜミンガスはジャズ界の「怒れる男」と呼ばれたのですか?

A. ミンガスは「火山のように活動的で怒りっぽく、独善的で、不安定な性格」でした。彼のキャリアは彼自身の「リビドーと気性」によって、しばしば嵐のように道を外れました。彼は音楽界の「人種差別と経済的搾取」と闘い、時にステージ上でバンドメンバーや観客に対して激しく怒鳴り散らすこともありました。彼の「暴力的エピソード」は有名で、長年の協力者であったトロンボーン奏者ジミー・ネッパーの歯を折るという事件も起こしています。しかし彼の怒りの裏には、人種的不公正に対する悲痛なまでの感情と、芸術に対する純粋な誠実さがあったと言えます。

『黒い聖者と罪ある女』をさらに楽しむための名盤と音楽家たち

BSSLの「第三の流れ(Third Stream)」的なアプローチや大規模アンサンブルの音楽に魅了された方へ、次に聴くべきミンガスの重要作品と、同時代の偉大な音楽家たちを紹介します。

ミンガス作品の系譜を辿る3選

ミンガスは1963年のライナーノーツで、このアルバム以外は「たぶん他の1枚を除いて、他の全てのレコードを捨ててしまいたい」と発言していますが、彼のディスコグラフィーにはBSSLに匹敵する傑作が数多くあります。

『Pithecanthropus Erectus(直立猿人)』(1956)

特徴: アトランティック・レコードとの契約第一弾であり、「ベーシストとしてだけでなく、作曲家としての地位も確立した」ミンガスのブレイクスルーとなった作品です。タイトル曲は類人猿から人間への進化、そして最終的な没落を描いた10分の「トーン・ポエム」(交響詩)であり、ジャズに物語的要素を持ち込んだとして高く評価されました。
聴きどころ: BSSLに先立つ初期のアヴァンギャルド的傾向と、構造に囚われない自由な即興の萌芽を見ることができます。

『Mingus Ah Um(ミンガス・アー・アム)』(1959)

特徴: デイヴ・ブルーベックの『タイム・アウト』やマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』など、歴史的名盤が集中した1959年にリリースされた、ミンガスの最もよく知られたアルバムの一つです。
聴きどころ: レスター・ヤングへのエレジー「Goodbye Pork Pie Hat」や、人種差別主義者の知事を風刺した「Fables of Faubus(フォーバス知事の寓話)」など、代表曲を多数収録しています。ポスト・バップの傑作として、ブルースやゴスペル音楽に強く根ざした「ソウルフル」なフィーリングが堪能できます。

3. 『Let My Children Hear Music(レット・マイ・チルドレン・ヒア・ミュージック)』(1972)

特徴: BSSLと同様に大規模なオーケストラ編成を用いた、ミンガスの後期の代表的な組曲です。ミンガス自身がアレンジを手掛けた曲も含まれており、BSSLの「作曲家としての野心」が、より洗練された形で引き継がれています。
聴きどころ: BSSLの「ムーディな感覚」や「サード・ストリーム」的な要素をさらに求めているリスナーに強く推奨されます。

2. 第三の流れ(Third Stream)を築いた巨人たち

BSSLが持つクラシックとジャズの融合という特徴(サード・ストリーム)や、集団即興(Collective Improvisation)といった先進的な要素をより深く探求する上で、欠かせない音楽家たちです。

Duke Ellington(デューク・エリントン)

なぜ聴くべきか: ミンガスが「偶像」と崇拝し、彼の「真の後継者」と評されるエリントンは、大規模アンサンブル(ビッグバンド)の表現力を芸術的に高めた巨匠です。ミンガスの音楽の多層的な構造や、ソリストの個性を活かす作曲スタイルはエリントンからの影響が色濃く出ています。
おすすめ: 『Far East Suite(極東組曲)』。エリントンがアジアツアーから得た刺激を昇華した組曲であり、BSSLに通じる異文化融合組曲構成の妙を味わえます。

Gil Evans(ギル・エヴァンス)

なぜ聴くべきか: マイルス・デイヴィスとの共同作業で知られるアレンジャー・オーケストレーター。クラシックの技法を取り入れた「クール・ジャズ」「モード・ジャズ」の発展に大きく貢献し、BSSLと同じくサード・ストリームの代表例とされる作品を多く残しました。
おすすめ: マイルス・デイヴィスとの共作『Sketches of Spain(スケッチ・オブ・スペイン)』。スペイン音楽の要素を大規模オーケストラで見事に融合させた作品は、BSSLのスパニッシュ・テイストの源流の一つとして聴くことができます。

John Coltrane(ジョン・コルトレーン)

なぜ聴くべきか: BSSLがアヴァンギャルドの方向性を模索していた時代、コルトレーンはモード・ジャズからフリー・ジャズ(1960年代のアヴァンギャルド)へと移行し、「魂の音楽」を追求していました。ミンガスの音楽にある「混沌とした美しさ」や「超越的な雰囲気」の先にある、より精神性の高い(スピリチュアル・ジャズ)世界を体験できます。
おすすめ: 『A Love Supreme(至上の愛)』。コルトレーンが1957年に経験した「霊的な目覚め」を音楽で表現した組曲であり、BSSLが持つ「カタルシス」「魂の探求」というテーマに共鳴します。

混沌の中から生まれる美

チャールズ・ミンガスは、ベーシスト、作曲家、バンドリーダーという複数の顔を持ちながら、「人種差別反対活動家」という側面も持っていました。彼の音楽はその時代のアフリカ系アメリカ人の「感情の発露であり叫び」であり、「政治的なテーマを直截に音楽へ注ぎ込んだ遺志」を体現しています。

『黒い聖者と罪ある女』は、ミンガスが彼の人生を凝縮して表現した「生きた墓碑銘」であり、ジャズの伝統(デューク・エリントンやニューオーリンズ・ジャズ)と、当時最先端だったアヴァンギャルド(オーネット・コールマンに代表される「ニュー・シング」)の「橋渡し」をした作品です。

ミンガスは、その激しい気性や「暴力的エピソード」で知られる一方で、有能なミュージシャンであれば人種を問わず受け入れ、育成に貢献した「教育者」としての側面も持っていました。彼のバンド「ジャズ・ワークショップ」は多くの若手ミュージシャンを輩出し、「ジャズ界のハーバード大学」とも呼ばれたほどです。

混沌とした響きの中に、計算し尽くされた構成と魂を揺さぶる感情が凝縮された『黒い聖者と罪ある女』は、今なお色褪せない「音楽の奇跡」であり、時代を超えて聴き継がれるべき傑作です。

もしあなたがこのアルバムを聴き終えて「理解できない」と感じたとしても、それで構いません。ミンガス自身が「美しいものが好きなら、誰もどうすべきか教えられない」と語ったように、まずはその「情熱的なエネルギー」に身を委ね、「ゾウが工場を破壊している」ような激しさの中から、あなた自身の「美」を見つけてみてください。

この記事がチャールズ・ミンガスの音楽への、深く長い旅路のきっかけとなれば幸いです。

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