『サスペリアPART2』完全ガイド:ダリオ・アルジェントの深紅の傑作を徹底解剖!
なぜ私たちは『サスペリアPART2』に惹かれるのか?
映画鑑賞後、深く心に刻まれる作品に出会った経験はありますか?
予想を裏切る展開や、鮮烈な映像、忘れられない音楽が一体となったとき、その作品は単なるエンターテイメントを超えた「体験」となります。
ダリオ・アルジェント監督の『サスペリアPART2』は、まさにそんな強烈な体験を私たちに与えてくれる一本です。
しかし「サスペリアPART2」という邦題から、ホラー映画の金字塔『サスペリア』の続編だと誤解している方も多いかもしれません。実は、この作品には日本での公開時にまつわる、ある興味深い事情が隠されています。
この記事を読めば、あなたは『サスペリアPART2』の本当の姿を知り、まだ観ていない方にもその奥深い魅力に触れることができるでしょう。熱心な映画ファンの方々には、本作の制作背景や監督の美学、そして映画史に与えた影響について、新たな発見を提供できるはずです。
邦題の秘密からアルジェントの映像美、ゴブリンの音楽が奏でる魔術、そして「見ているのに見過ごす」という衝撃のトリックまで、この深紅の傑作のすべてを徹底的に解剖していきましょう。
まずはここから!『サスペリアPART2』の基本情報と楽しみ方
『サスペリアPART2』ってどんな映画?基本をチェック!
まずは『サスペリアPART2』の基本的な情報を見ていきましょう。この映画をより深く理解するための土台となります。
原題と公開年:イタリア語原題は『Profondo Rosso(プロフォンド・ロッソ)』、「深紅」を意味します。英語タイトルは『Deep Red』。イタリアでは1975年に公開されました。日本では1978年に公開されています。
監督:イタリアンホラーの巨匠、ダリオ・アルジェント。彼はホラー映画界の「帝王」とも称され、鮮烈な色彩感覚と残酷描写、独創的な映像美で知られています。
ジャンル:「ジャッロ(Giallo)」と呼ばれるイタリア独自のサスペンス・スリラー映画に分類されます。ジャッロ映画はミステリー、犯罪、ホラー、エロティックな要素が融合したジャンルで、過激な残酷描写や性描写が特徴です。超自然的な要素よりも、謎解きがメインとなります。
あらすじ:あるクリスマスの夜、子供の歌声が流れる中で殺人が行われます。数十年後、欧州超心霊学会でテレパシー能力を持つヘルガ・ウルマンは、聴衆の中に殺人者がいることを告げ、その後何者かに惨殺されます。
偶然その瞬間を目撃したイギリス人ピアニストのマークは、女性記者ジャンナと協力し、事件の謎を追うことになります。捜査が進む中でマークは、殺害現場の部屋で見た「消えた絵」に違和感を抱き、その謎を解き明かそうとします。そして、やがてたどり着く真犯人の存在と、その背景にある過去の悲劇が明らかになるのです。
「PART2」の謎を解き明かす!邦題に隠された真実
多くの人は「サスペリアPART2」という邦題から、1977年公開のホラー映画『サスペリア』の続編だと思っていますよね。しかしそれは、事実ではありません。
『サスペリアPART2』は本国イタリアでは『サスペリア』よりも2年も早く、1975年に公開されました。ストーリーや登場人物に関連性は一切ありません。
ではなぜ、「PART2」と名付けられたのでしょうか? それは日本で1977年に公開された『サスペリア』があまりにも大ヒットしたため、日本の配給会社が「同じダリオ・アルジェント監督の作品なら『サスペリア』の続編として売り出した方が客を呼べるだろう」と考えたからです。監督自身もこの邦題に驚いたそうです。
本来、『サスペリア』には『インフェルノ』(1980年)や『サスペリア・テルザ 最後の魔女』(2007年)が正統な続編として存在し、これらは「魔女三部作」として知られています。そのため『サスペリアPART2』は、日本において「最も不幸な邦題を背負った映画」とファンから評されました。現在発売されているDVDやBlu-rayには、『サスペリアPART2/紅い深淵』というように、原題を訳した副題が付けられることもあります。
日本公開時のキャッチコピーは「約束です!決してひとりでは見ないでください」です。これは『サスペリア』のキャッチコピー「決してひとりでは見ないでください」に「約束です!」を付け加えたもので、配給会社の手抜きを指摘する声もあります。
初めて観るならココに注目!『サスペリアPART2』の必見ポイント
『サスペリアPART2』を最大限に楽しむためのポイントを、3つご紹介します。
視覚トリック「見ているのに見過ごす」衝撃:この映画の最大の魅力の一つは、冒頭に仕掛けられた「映像の叙述トリック」です。
主人公のマークは最初の殺人現場で犯人の顔をはっきりと目撃しているにもかかわらず、ある心理的な要因からそれを認識できません。そして観客である私たちもまた、このトリックにまんまと騙されてしまいます。
初めて観る方はぜひ、このトリックに注目してみてください。「一体何を見落としているのか?」という疑問に、より引き込まれることでしょう。観終わった後、もう一度最初から見返したくなること間違いなしです。
ゴブリンの音楽・耳に残る不気味なメロディ:映画の雰囲気を決定づけるのが、イタリアのプログレッシブ・ロックバンド、ゴブリンによる印象的で不気味な音楽です。
特にメインテーマである「Profondo Rosso」は、不気味なアルペジオと高音域のメロディが特徴的で、一度聴いたら忘れられないでしょう。
殺人シーンで流れる「Death Dies」のようなジャズ風ロックサウンドも非常に効果的です。この音楽は恐怖感を煽り、映画の世界観を深く印象付けます。
アルジェントの色使い・深紅の美学:原題が「深紅」を意味するように、この映画では「赤」という色が非常に印象的に使われています。流れる血の色、カーテン、セットの装飾など、様々な場面で鮮やかな赤が氾濫し、観客の視覚に強く訴えかけます。
アルジェント監督は「色は、映画にトーンや魂を与える基本的な道具なんだ」と語っており、その独特の色彩感覚がこの作品の大きな魅力となっています。
深淵を覗き込む『サスペリアPART2』の考察と制作秘話
ここからはより深く、『サスペリアPART2』の世界に迫るための情報をご紹介します。
ダリオ・アルジェント監督の「ジャッロ」への回帰と美学
ダリオ・アルジェント監督はデビュー作『歓びの毒牙』(1970年)以来、『わたしは目撃者』(1971年)、『4匹の蝿』(1971年)といった作品で「ジャッロ」と呼ばれるサスペンス映画の名手として名を馳せました。これらの作品は総称して「動物三部作」と呼ばれています。
『ミラノ五日間』(1973年)では、19世紀のミラノを舞台にしたコメディ映画という異例のジャンルに挑戦します。アルジェントはスリラーとは異なる分野で自分の力量を試そうとしましたが、この作品は興行的に失敗し、批評家にも無視され、海外配給もされませんでした。
この失敗を機に、アルジェントは「次は必ず汚名返上しなくてはならない」と決意し、再び得意とする「ジャッロ」の世界へと舞い戻ることを決めます。その起死回生の一作こそが、この『サスペリアPART2』だったのです。窮地に立たされた時こそ原点に戻るという、アルフレッド・ヒッチコックも実践した鉄則が功を奏した形となりました。
アルジェント監督の作品に一貫して流れるのは、リアリティを無視した「純粋なる映画表現の追求」です。『サスペリアPART2』では、それが横溢しています。
例えば、ヘルガの部屋に無数に飾られた不気味な絵画、主人公マークが襲われる際に流れる子守唄のテープ、ジョルダーニ教授が襲われる場面で脈絡なく登場する機械仕掛けの人形。
これらは「話として支離滅裂だから、カットした方がいい」という周囲の意見があったにもかかわらず、アルジェントは「その方が面白いから」「その方が観客の脳裏に残るから」という理由で、論理性よりも幻想性を重視しました。
ライター川勝正幸氏の言葉を借りれば「多少の辻褄よりは目の快楽」、まさに「快楽」に満ちた作品と言えるでしょう。
アルジェントの映像美は、強烈な色彩感覚にも表れています。「色は、映画にトーンや魂を与える基本的な道具なんだ」と語り、特に本作の原題「深紅」が示すように、「赤」という色が映画のあらゆる場面で効果的に使われています。
映画冒頭の夜の広場にたたずむカフェのシーンは、エドワード・ホッパーの絵画「ナイトホークス」に感銘を受けたアルジェントが、セットで忠実に再現したものと言われています。
動かない客たちがまるで絵画のようであると評されるこのシーンは、静寂から一転してヘルガの殺人へと繋がる、見事な演出です。
ゴブリン誕生秘話:映画音楽史を変えた偶然の出会い
アルジェント監督は当初、ピンク・フロイドに『サスペリアPART2』の音楽を依頼しようと考えていました。しかし当時のピンク・フロイドは、アルバム『炎~あなたがここにいてほしい』(1975年)の制作で多忙を極めており、残念ながら断られてしまいます。
次に監督が目を向けたのが、ジャズミュージシャンのジョルジオ・ガスリーニでした。ガスリーニは以前にもアルジェントのテレビ作品やコメディ映画の音楽を手がけており、『サスペリアPART2』でも作曲を担当していました。
しかしガスリーニのジャズ色が強すぎる音楽は、アルジェントが求める「鋭角的な音楽」のイメージとは異なり、最終的にガスリーニは映画を降板することになります。ただしガスリーニが作曲した子供の歌「School at Night」や、マークがピアノを弾くシーンの曲は映画に残されました。
この窮地にレコード会社のプロモーターから紹介されたのが、当時チェリー・ファイブというバンド名の若手プログレッシブ・ロックバンドでした。
彼らは元々、ガスリーニの曲を演奏するために呼ばれたのですが、監督のダリオ・アルジェントは彼らの演奏を気に入り、「とてもいいね。やらせてみよう」と、オリジナル・スコアも担当させることになります。
そしてクラウディオ・シモネッティが、メインテーマの象徴的なアルペジオの原型を作り上げ、バンド名もゴブリンに変更。こうして、映画音楽史に残るアルジェントとゴブリンの黄金コンビが誕生したのです。
結果的に映画は爆発的なヒットを記録し、サウンドトラック盤はイタリアのチャートで15週連続1位を記録、100万枚を超えるセールス達成の大成功を収めました。
ゴブリンの音楽は後のクリエイターにも大きな影響を与え、例えばジョン・カーペンター監督は自身の代表作『ハロウィン』(1978年)のテーマ曲を、『サスペリアPART2』の音楽を参考に作曲したと明言しています。イタリアでは今でも、着信音に使われるほど国民的な曲となっています。
「黒手袋の男」の正体:アルジェント監督自身の演出
ダリオ・アルジェント監督の作品で特徴的なのが、殺人鬼が身につける黒い手袋です。実はこれらの殺害シーンで映し出される「黒手袋の男の手」は、監督自身の手だというトリビアがあります。
アルジェントは「自分自身が一番うまい」と語り、自ら演じることにこだわっていました。彼は殺しの瞬間を細部までこだわり抜き、観客に直接的な恐怖を植え付ける演出を追求したのです。
この監督自身の演技が、映画の不気味さとリアリティ(あるいは超現実的な美学)を一層引き立てています。
【Q&A想定】『サスペリアPART2』に関するよくある疑問を解決!
映画を観ていて、「これってどういうこと?」と思った疑問をQ&A形式で解説します。
Q1. 主人公マークと女性記者ジャンナの関係性は?
A. 映画では直接的な描写はありませんが、マークが服を着ながらボタンをはめているシーンの後で、ジャンナが「少しは落ち着いた?」と尋ねる会話があります。このことから腕相撲のシーンの直前に、二人が性的な関係を持ったことが示唆されています。二人の軽妙なやり取りは、アルジェント作品としては珍しいコメディタッチのシーンとして、作品に独特の彩りを加えています。
Q2. 不気味な人形がたくさん登場しますが、何か意味があるの?
A. 人形自体に特定の意味はないとされています。しかし、その不気味な存在感や吊るされ方、刺され方などが映画の不穏な雰囲気を強調し、今後の殺人を暗示している可能性もあります。特にジョルダーニ教授が襲われる際に突然飛び出してくる機械仕掛けの人形は、観客に強烈なトラウマを与えるシーンとして有名です。アルジェント監督はこうした「論理的な必然性のない呪物」をあえて投入することで、観客の神経を摩耗させることを狙っています。
Q3. 殺人鬼の動機はなんだったの?
A. 最初の被害者である超能力者ヘルガ・ウルマンは、そのテレパシー能力によって犯人が過去に犯した殺人を見破ってしまったことが動機です。この事実を隠蔽するために、ヘルガは殺されたのです。過去のクリスマスの惨劇を、ある人物が庇い続けていたことが事件の背景にあります。
Q4. 『サスペリアPART2』には複数のバージョンがあると聞いたけど、どれを観ればいい?
A. 本作には主に106分の劇場公開版と126分の完全版が存在します。106分版は「輸出バージョン」としてアメリカの観客向けにカットされたもので、ペースが良いと感じる人もいます。しかし、監督ダリオ・アルジェントがリリースしたのは126分の完全版であり、オリジナルバージョンの方が優れていると考えるファンが多数です。完全版ではピアノの連弾シーンやより詳細な人間関係の描写などが含まれており、より深く作品世界に浸りたいなら完全版の鑑賞をおすすめします。
『サスペリアPART2』を観たら次に観たいおすすめ映画3選
『サスペリアPART2』の世界に魅了されたら、次に観てほしい関連作品を3本ご紹介します。
『サスペリア』(1977年):「PART2」の邦題のために、しばしば比較対象となる「本家」のホラー映画です。魔女を題材にしたオカルトホラーであり、鮮烈な赤や青のライティング、ゴブリンによる不気味な音楽、そして悪夢のような映像美が特徴です。『サスペリアPART2』とは全く異なるジャンルですが、アルジェント監督の映像美の極致を体験できる傑作です。
『歓びの毒牙』(1970年):ダリオ・アルジェント監督の記念すべきデビュー作であり、「動物三部作」の第一作です。ここでも「殺人を描いた一枚の絵が引き金となり、殺人衝動が呼び覚まされる」というように、「視覚トリック」のモチーフが既に用いられています。『サスペリアPART2』に通じる、アルジェントのミステリー映画の原点を体験できるでしょう。
『ハロウィン』(1978年::ジョン・カーペンター監督によるスラッシャー映画の傑作は、そのテーマ曲が『サスペリアPART2』の音楽から影響を受けていることで知られています。カーペンター自身が「『サスペリアPART2』を観て、このような曲を書こうと思った」と明言しています。ゴブリンの音楽が映画音楽史に与えた影響を、別の作品を通じて感じ取ることができる興味深い一本です。
『サスペリアPART2』が示す映画の無限の可能性
『サスペリアPART2』は、日本での誤解された邦題や、ガスリーニからゴブリンへの音楽変更といった制作上の紆余曲折を乗り越え、ダリオ・アルジェント監督の「純粋なる映画表現の追求」と「目の快楽」が結実した傑作です。
「見ているのに見過ごす」という巧妙な視覚トリック、ゴブリンによる耳に残る強烈な音楽、そして深紅に彩られたアルジェントならではの映像美。これら全てが一体となり、観る者を深淵なる「ジャッロ」の世界へと誘います。
ベテランの映画ファンであっても、改めてご覧になれば新たな発見と衝撃が待っているはずです。きっとこれまで気づかなかった細部や監督の意図に触れ、作品の新たな魅力に気づかされることでしょう。まだ観たことがない方は、ぜひ一度この「深紅の傑作」を体験してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたの映画鑑賞が、より豊かな体験となることを願っています!
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