心に響くプロコフィエフ交響曲第7番:晩年の作曲家が描いた「静かな別れ」

クラシック音楽
  1. プロコフィエフ交響曲第7番「青春」の魅力とは?
  2. プロコフィエフ交響曲第7番の概要と創作背景
    1. セルゲイ・プロコフィエフとは?
    2. 鋭いハーモニーとリズム
    3. 美しい抒情性とメロディ
    4. 独創的なオーケストレーション
    5. 交響曲第7番「青春」の誕生
  3. 交響曲第7番の重要ポイントと魅力
    1. 各楽章の解説
      1. 第1楽章:Moderato
      2. 第2楽章:Allegretto
      3. 第3楽章:Andante espressivo
      4. 第4楽章:Vivace
    2. 論争の的「二つのエンディング」
      1. オリジナルのエンディング(静かな終結部)
      2. 加筆されたエンディング(華々しい終結部)
  4. 交響曲第7番にまつわるQ&A
      1. Q1: この交響曲は本当に「シンプル」な音楽ですか?
      2. Q2: 「青春交響曲」という愛称は誰が付けたのですか?
  5. プロコフィエフ交響曲第7番の推薦盤
    1. 名盤:定番中の定番、まずはここから
      1. ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団
      2. アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団
    2. 注目盤:一歩踏み込んだ解釈、聴き応えのある演奏
      1. ネーメ・ヤルヴィ指揮 スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
      2. ズデニェク・コシュラー指揮 スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団
    3. 異色盤:ユニークなアプローチ、意外な発見
      1. クラウス・テンシュテット指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
      2. ニコライ・アノーソフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
      3. アンドレ・プレヴィン指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニック
  6. プロコフィエフ交響曲第7番の不朽の魅力

プロコフィエフ交響曲第7番「青春」の魅力とは?

ロシアを代表する偉大な作曲家、セルゲイ・プロコフィエフ
彼の最後の交響曲である「交響曲第7番」は、その愛称から「青春交響曲」としても親しまれています。しかしこの作品には、シンプルな中に隠された深いメッセージや、聴き手を悩ませる「二つのエンディング」の秘密があることをご存じでしょうか?

この記事では、プロコフィエフの「交響曲第7番」がなぜ音楽ファンに愛され、同時に議論を呼ぶのかを徹底解説します。その背景から各楽章の魅力、そして「二つのエンディング」にまつわる真実に迫り、おすすめの名盤もご紹介します。

プロコフィエフ交響曲第7番の概要と創作背景

セルゲイ・セルゲーエヴィチ・プロコフィエフ(1891-1953)は、旧ソビエト連邦を代表する著名な指揮者、作曲家、ピアニストです。彼の作品は多岐にわたり、生涯を通じてソナタを好んで作曲しました。
晩年に創作されたピアノソナタ第6番、第7番、特に第8番は「戦争ソナタ」とも呼ばれ、彼の代表作として知られています。

セルゲイ・プロコフィエフとは?

プロコフィエフは幼少期からその才能を発揮し、5歳半で最初のピアノ曲「インドのギャロップ」を作曲、9歳でオペラ「巨人」を完成させるなど、「モーツァルトの再来」とも称されました。サンクトペテルブルク音楽院に入学後も、その前衛的な作風は賛否両論を巻き起こしましたが、常に新しい音楽表現を追求し続けました。

第一次世界大戦やロシア革命の混乱期を経て海外に渡り、パリを拠点に活動しましたが、1936年にはソ連に帰国し、スターリン体制下での創作を続けます。この時期に「ピーターと狼」やバレエ「ロメオとジュリエット」といった親しみやすい傑作を生み出しました。

プロコフィエフの音楽が人々を魅了する響きは、その多様な独創性によって生み出されています。彼の作品は古典的な形式美と鋭い不協和音、そして抒情的な旋律が絶妙に融合しています。

鋭いハーモニーとリズム

プロコフィエフの音楽の最も特徴的な要素の一つは、複雑で鋭いハーモニーです。伝統的な調性を逸脱した大胆な和音や、半音階的な進行を多用しました。時にこれらは、聴き手に不穏さや緊張感を与えますが、同時に彼の音楽に現代的な鋭利さと個性を与えています。
不規則で突き刺すようなリズムも、彼のトレードマークです。強烈なアクセントやシンコペーションを多用することで、音楽に推進力と躍動感を与え、聴く者を惹きつけます。ピアノ作品である『トッカータ』やバレエ音楽『スキタイ組曲』などに、その典型が見られます。

美しい抒情性とメロディ

一方でプロコフィエフは、人々の心を捉える流麗で美しい旋律を生み出す天才でもありました。鋭い不協和音の後に現れる、穏やかで郷愁を帯びたメロディは、聴き手に強い印象を与えます。
例えば交響曲第7番やバレエ音楽『ロメオとジュリエット』では、その甘く切ない旋律が、聴く者の感情に深く訴えかけます。この対照的な要素の共存こそが、プロコフィエフの響きの大きな魅力です。

独創的なオーケストレーション

彼の音楽は、色彩豊かなオーケストレーションによっても際立っています。彼は楽器の音色を巧みに組み合わせ、独特なサウンドを作り出しました。木管楽器の鋭い響きや、金管楽器の強烈なアクセント、弦楽器の甘く流れるような音色を効果的に使い分けることで、彼の音楽は視覚的なイメージを喚起します。
例えば交響的物語『ピーターと狼』では、それぞれの登場人物を特定の楽器で表現し、物語を音楽で鮮やかに描き出しています。

このように、プロコフィエフの音楽は、不協和音と調和、鋭いリズムと流れるようなメロディといった相反する要素を巧みに組み合わせることで、聴き手に予測不可能な驚きと深い感動を与え、人々を魅了し続けています。

交響曲第7番「青春」の誕生

プロコフィエフの交響曲第7番 嬰ハ短調 作品131は、1952年に完成しました。これは彼の死の一年前、そして最後の主要な管弦楽作品となりました。

この作品が「青春交響曲」という愛称で呼ばれるようになった背景には、複雑な事情があります。彼はソビエト当局から「形式主義」との批判(ジダーノフ批判)を受け、特に前作の交響曲第6番は「デカダンス的、形式主義的」として非難されていました。財政的にも困窮していたプロコフィエフは、10万ルーブルのスターリン賞受賞を強く望んでいました。

そこでソビエト児童ラジオ部門からの委嘱を受け、彼はこの交響曲を「子供のための交響曲」として作曲しました。当初、プロコフィエフ自身は「シンプルな交響曲とは決して呼ばないだろう」と語るなど、この「単純さ」というレッテルに必ずしも満足していませんでした。
結果としてこの作品は、彼の「新しい単純性」への欲求と、当局の要求に応えようとする試みが結びつき、より親しみやすくメロディックなスタイルで書かれました。

初演は1952年10月18日にモスクワでサムイル・サモスードの指揮によって行われ、熱狂的な反響をもって迎えられました。その後、1957年に作曲者の死後、この交響曲はレーニン賞を受賞しています。

交響曲第7番の重要ポイントと魅力

交響曲第7番はその「シンプルさ」の裏に、プロコフィエフの円熟した作曲技術と豊かな情感が凝縮されています。

各楽章の解説

全4楽章で構成され、演奏時間は約30〜35分です。

第1楽章:Moderato

嬰ハ短調、4分の4拍子、ソナタ形式。
冒頭の弦楽器による物悲しくも叙情的な主題が、交響曲全体の郷愁的な性格を決定づけます。
非常に息の長い、雄大なメロディが特徴で、まるでロシアの大地を思わせるような広がりを感じさせます。
フルートとグロッケンシュピールによる繊細なモチーフは、子供のような無邪気さやおとぎ話のような雰囲気を醸し出し、終楽章でも再登場し、作品全体の統一感をもたらします。
激しい対立がなく、叙情的で夢想的な展開が魅力です。

第2楽章:Allegretto

ヘ長調、4分の3拍子。
華やかで軽快なワルツが特徴で、プロコフィエフのバレエ音楽(特に「シンデレラ」や「戦争と平和」のワルツ)を彷彿とさせます。
夢見心地で奔放な雰囲気と、皮肉めいた茶目っ気が入り混じった多様な表現が魅力です。
木管楽器、金管楽器、打楽器が生き生きとした対話(ティンバー対話)を繰り広げ、色彩豊かなオーケストレーションが際立ちます。

第3楽章:Andante espressivo

変イ長調、4分の4拍子。
内省的で穏やかな緩徐楽章であり、ソナタ全体の中で最も静かで平和な部分です。
主要な主題は、プロコフィエフが「エフゲーニ・オネーギン」の劇付随音楽でタチアナのイメージとして用いた旋律を転用したとされています。
その温かく叙情的なメロディは、厳かながらも明るい感情に満ち、人々の幸福な生活への願望を体現しています。
簡素な子供の歌のような中間部が印象的で、第1楽章の「おとぎ話のような主題」とも響き合います。

第4楽章:Vivace

変ニ長調、4分の2拍子、複合三部形式。
ギャロップのリズムが特徴的な速いテンポの楽章で、祝祭的な活気に満ちています。
メインテーマは行進曲風やダンス風に変形し、オーケストラの妙技が存分に発揮されます。
この楽章のクライマックスでは、第1楽章の副次主題が雄大なアポセオーゼ(賛歌)として回帰し、全曲に一体感をもたらします。
ハープやピアノ、シロフォン、グロッケンシュピールといった輝かしい打楽器が効果的に用いられ、華やかな音色を添えています。

論争の的「二つのエンディング」

交響曲第7番には、作曲家自身が望んだ「オリジナルの静かな終わり方」と、初演指揮者サムイル・サモスードの提言で書き加えられた「華々しい終わり方」の二つの版が存在します。

オリジナルのエンディング(静かな終結部)

第1楽章のテーマとフルートとグロッケンシュピールのモチーフが回想され、揺れ動く和音と金管の鋭い和音によって、謎めいた(enigmatic)雰囲気で静かに終わります。まるで人生の諦めや郷愁、またははかなく消えゆくような余韻を残します。プロコフィエフは「あなた(ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ)は私よりずっと長生きするだろうから、新しいエンディング(華々しい方)が私の死後存在しないように気をつけてほしい」と伝えたそうです。

加筆されたエンディング(華々しい終結部)

サモスードは、静かな終わり方ではスターリン賞の1等(賞金10万ルーブル)ではなく、2等(賞金5万ルーブル)になってしまうと説得し、プロコフィエフは20小節ほどの追加コーダを書き加えました。この版では終楽章の冒頭の素材が再現され、賑やかに終わります。

どちらのエンディングを選ぶかは指揮者の判断に委ねられており、演奏会や録音によって異なります。しかし、多くの評論家やファンは、プロコフィエフ自身の意図を尊重し、オリジナルの静かなエンディングを好む傾向にあります。

交響曲第7番にまつわるQ&A

交響曲第7番に関してよくある疑問にお答えします。

Q1: この交響曲は本当に「シンプル」な音楽ですか?

A1: プロコフィエフ自身は、この作品を「単純」と称されることに必ずしも同意していませんでした。確かに、初期の彼の作品に見られた大胆な不協和音や複雑さは抑えられ、よりメロディックで分かりやすい音楽になっています。しかしその「シンプルさ」の裏には、豊かで多様な感情表現が込められています。ノスタルジー、遊び心、そして人生の悲哀が織り込まれており、見かけの単純さと奥深い複雑さのブレンドがこの交響曲の特別な魅力です。

Q2: 「青春交響曲」という愛称は誰が付けたのですか?

A2: プロコフィエフ自身がソビエトの青年に捧げる意向でこの作品を作曲し、自ら「青春交響曲」と呼んでいたことから、この標題が用いられるようになりました。スターリン賞受賞を目指し、体制の意向に沿った作品であると示すための意図があったと想像されます。

プロコフィエフ交響曲第7番の推薦盤

様々な指揮者とオーケストラによる素晴らしい録音が存在します。ここでは特に人気の高い演奏や、特徴的な解釈で知られる録音をご紹介します。

名盤:定番中の定番、まずはここから

ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団

オーマンディとフィラデルフィア管弦楽団の、流麗で甘美なストリングスがこの曲に非常に良く合っています。特に第2楽章のワルツは、まるで夢のようにロマンティックな響きを聴かせます。音色を重視したオーマンディらしいアプローチで、プロコフィエフの美しい旋律を存分に堪能できる名盤です。この曲を「ロマンティックな音楽」として捉えた、ひとつの模範と言えるでしょう。

アンドレ・プレヴィン指揮 ロンドン交響楽団

プレヴィンは、ピアニストとしてもプロコフィエフの作品を多く演奏しており、その深い理解が指揮にも表れています。このロンドン交響楽団との録音は、彼がプロコフィエフの交響曲全集を完成させた際の一枚で、非常に生き生きとしたテンポ感と、色彩豊かなオーケストラの響きが特徴です。曲全体を温かく、愛情深く描いており、この交響曲の持つ希望に満ちた側面を強く感じさせてくれます。特に、ロンドン交響楽団の柔らかく美しい響きは、この曲のメランコリックな魅力を引き立てています。

注目盤:一歩踏み込んだ解釈、聴き応えのある演奏

ネーメ・ヤルヴィ指揮 スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

ヤルヴィのプロコフィエフは、そのダイナミックで豪快な解釈が大きな魅力です。この第7番でもその個性は遺憾なく発揮されており、特に第1楽章のクライマックスや、第4楽章の躍動的なリズムは、他の演奏では聴けないような力強さを持っています。録音も優秀で、オーケストラのパワフルな響きが存分に楽しめます。この曲を「ロマンティックな抒情詩」としてだけでなく、「力強い生命力」を持った作品として再評価させてくれる、重要な一枚と言えるでしょう。

ズデニェク・コシュラー指揮 スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

コシュラーによる録音は、比較的地味な存在かもしれませんが、堅実で誠実な演奏が魅力です。過度な感情移入を避け、曲の構造を丁寧に描き出しています。特に各楽器の音色やバランスを重視した、聴き心地の良いアンサンブルが印象的です。この曲の持つ素朴で、飾り気のない美しさを再認識させてくれます。プロコフィエフの音楽の純粋な魅力を味わいたい方におすすめです。

異色盤:ユニークなアプローチ、意外な発見

クラウス・テンシュテット指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

テンシュテットのプロコフィエフは、彼の他のレパートリー(マーラーやブルックナー)と同様に、極めて濃厚で情熱的です。一般的な演奏よりもテンポが遅く、各パートの響きが深く掘り下げられています。まるで「老いたる悲しみ」や、決して楽観的ではない晩年のプロコフィエフの心情を、テンシュテット自らの人生と重ね合わせているかのようです。この曲の持つ郷愁やノスタルジーが一層深く、心に染み入る演奏と言えるでしょう。一聴の価値ありの異色盤です。

ニコライ・アノーソフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

この録音は、1950年代のチェコスロヴァキアで録音された、歴史的にも非常に重要なものです。ニコライ・アノーソフはロシアの指揮者で、プロコフィエフの音楽が当時の東欧圏でどのように演奏されていたかを知る貴重な資料となっています。
演奏はロシアの伝統的な重厚さと、チェコ・フィルの持つ流麗な響きが融合した独特なものです。他の演奏家とは異なる、素朴で飾り気のない、しかし深い情感を持ったアプローチが特徴です。
この時代の録音としては非常に音質が良く、オーケストラの美しい響きを堪能することができます。
プロコフィエフの晩年の作品に当時の社会情勢や文化的な背景を重ね合わせて聴くと、また違った感慨が湧いてくるでしょう。歴史的な価値と演奏自体の魅力の両方を兼ね備えた、知る人ぞ知る名盤と言えます。

アンドレ・プレヴィン指揮 ロサンゼルス・フィルハーモニック

プロコフィエフの交響曲第7番の終結部には、作曲者自身が初演指揮者サムイル・サモスードの要請で書き加えた、華々しく終わる版(第2稿)と、本来の静かに終わる版(第1稿)の2種類が存在します。
プレヴィンがロサンゼルス・フィルと録音した盤は、この「華々しい終わり方」を採用しています。彼の指揮はこの曲の持つ明るく穏やかな一面を強調しており、華やかな終結部はその解釈にふさわしいものです。他の演奏に比べ、より聴き手を楽しませることに焦点を当てたような、親しみやすい演奏となっています。

プロコフィエフ交響曲第7番の不朽の魅力

セルゲイ・プロコフィエフの交響曲第7番「青春」は、作曲家が晩年に到達した「新しい単純性」と、聴衆に寄り添おうとした彼の意図が結実した作品です。

親しみやすいメロディと軽やかな雰囲気を持つ一方で、その内側には人生の機微や郷愁、そして作曲家自身の複雑な心情が織り込まれています。特に二つの異なるエンディングの存在は、この作品が持つドラマ性と、プロコフィエフが置かれた時代背景を色濃く反映しており、聴き手に深い考察を促します。

この交響曲は、20世紀の音楽史におけるプロコフィエフの傑出した旋律の才能と、普遍的な美しさを兼ね備えた作品として、今もなお多くの人々に愛され続けています。
ぜひ、あなたのお気に入りの演奏を見つけ、この奥深い「青春」の世界に浸ってみてください。

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