【50周年】 イーグルス『Desperado』アルバム解説:ならず者という生き方に迫る

洋楽

カントリーロックの象徴・イーグルス

カントリーロックの象徴として、また世界で最も成功したバンドの一つとして知られるイーグルス。彼らの多くの名曲の中でも特に多くの人々の心を捉え、深い感動を与えてきた楽曲があります。それが、セカンドアルバムのタイトルにもなっている「Desperado」(ならず者)です。

この曲やアルバムには、隠された意味や背景が数多く存在しています。イーグルスが「Desperado」で描いた世界を深掘りし、その普遍的なメッセージや魅力に迫ります。

アルバム「Desperado」が描く世界

イーグルスのアルバム『デスペラード』は彼らにとって2作目のスタジオアルバムであり、西部開拓時代をテーマにしたコンセプトアルバムです。ジャクソン・ブラウンが21歳の誕生日に受け取った、ワイルドウエスト(開拓時代の米国西部地方)のガンマンに関する本がきっかけとなりました。グレン・フライドン・ヘンリー、ジャクソン・ブラウン、J.D.サウザーといったバンドメンバーや関係者が、アウトローというアイデアを練り上げます。

アルバムのテーマが楽曲に与えた影響

アルバムのテーマは、収録されている楽曲の方向性や雰囲気に深く影響を与えました。

核となる楽曲としてドーリン・ダルトンギャング(実在したギャング団)について歌った「Doolin-Dalton」 や、アルバムの基準点となり、アンチヒーローというテーマの基となったタイトル曲「Desperado」 などがあります。

他の楽曲も、アウトローや放浪の雰囲気を取り入れています。例えば、アウトローの生き方を歌った「Outlaw Man」(これはデヴィッド・ブルーのカバー曲ですが、テーマに合致するため選ばれました)、「Bitter Creek」はガンマンの名前から取られていますが、歌詞のテーマは直接アウトローに結びついていません。

「Twenty-One」は若者の活発さをカントリー/ブルーグラスのサウンドで表現しており、「Out Of Control」や「Tequila Sunrise」、「Saturday Night」といった曲は、旅するミュージシャンの生活や孤独感を西部劇の荒々しさや感傷と重ね合わせて描いています。

「Certain Kind of Fool」は、非凡な人生を送ろうとする若者の心理を探求しており、これをアウトローや芸術家など様々な「クレイジーな奴」に当てはめることができます。この曲は西部劇のモチーフは明確ではありません。

アルバム全体のコンセプトは、楽曲間の流れをスムーズにするためのインストゥルメンタル曲「Doolin-Dalton (Instrumental)」にも影響を与えています。また、オープニングの「Doolin-Dalton」とタイトル曲「Desperado」を組み合わせたエンディングの「Doolin-Dalton / Desperado (Reprise)」は、アルバムのテーマや雰囲気を締めくくる役割を果たしています。
音楽スタイルとしては、カントリーやブルーグラスの影響が顕著に見られます。

アルバムのテーマが商業的成功に与えた影響

アルバムのリリース当初の商業的な成功は、先行シングルヒットを多く生んだデビューアルバムほどではありませんでした。

『デスペラード』はBillboard 200で最高41位にチャートインしました。
当時のアトランティック・レコードの社長は、アルバムを聴いて「なんてこった、カウボーイアルバムを作りやがった!」と否定的な反応を示しました。
シングルとしてリリースされたのは「Tequila Sunrise」と「Outlaw Man」のみで、それぞれ最高64位と59位でした。
タイトル曲「Desperado」はシングルとしてリリースされませんでした。ドン・ヘンリーはこの曲のボーカルパフォーマンスに満足しておらず、ロンドンのスタジオでオーケストラを前にしたレコーディング環境にプレッシャーを感じていたことを明かしています。

しかし、時間が経つにつれて『デスペラード』は評価を高め、バンドの重要な作品として位置づけられるようになりました。

アルバムは最終的にゴールドおよびダブルプラチナ認定を獲得し、2000年にはグラミー殿堂入りも果たしています。
シングルカットされなかった「Desperado」は、アルバムのセールスだけでなく、その後のベストアルバム『イーグルス・グレイテスト・ヒッツ 1971-1975』の成功にも大きく貢献しました。このベストアルバムはアメリカで史上最も売れたアルバムの一つです。
アルバム全体が持つ統一されたテーマと質の高い楽曲群は、「アルバム作品」としての持続的な人気をもたらしました。

『デスペラード』の西部開拓時代というテーマは、楽曲制作に明確な方向性を与え、アルバムアートワークや雰囲気にも一貫性をもたらしました。リリース当初は商業チャートでの大成功には繋がらなかったものの、そのコンセプトと音楽性によって長期的な評価とセールスを獲得し、イーグルスのキャリアにおける重要な一里塚になったのです。

プロデューサーのグリン・ジョンズは、アルバムにいくつかの音楽的な繋がりを考えたものの、コンセプト自体は曖昧になったと述べています。それでも『デスペラード』は「広大な平原の雰囲気と、タフで男らしい孤独感」に満ちており、聴き手をその世界観に引き込む力があります。

アルバムのアートワークには、ヘンリー・ディルツによる写真が使用されています。裏ジャケットの写真は、ダルトン一味(アメリカのオールドウエストで活動したアウトローグループ)の捕獲を再現したもので、メンバーに加えてジャクソン・ブラウン、J.D.サウザーといった協力者も写っています。

これらのイメージにはどこか舌足らずな雰囲気が含まれていて、作品全体に漂う崇高な感情が独りよがりになるのを防いでいる、と指摘する声もあります。商業的な成功を収めたデビューアルバムとは異なり、『Desperado』はリリース当初は商業的に期待外れと見なされましたが、後にカントリーロックの重要なアルバムの一つとして評価されています。

名曲「Desperado」 歌詞に隠されたメッセージ

タイトル曲「Desperado」

アルバムのタイトル曲であり、感情的な中心となっているのが「Desperado」です。この曲は、主にドン・ヘンリーによって書かれ、グレン・フライとの共作によって完成されました。ドン・ヘンリーによれば、この曲は彼が1968年に書き始めた曲が元になっており、レイ・チャールズスティーブン・フォスターのような古い曲のスタイルで書かれています。最初のアイデアは「Leo」という友人を題材にしたものでしたが、グレン・フライとの共作でテーマが広がり、西部開拓時代の要素が加わりました。

歌詞は、心を閉ざし、孤独な人生を送る「Desperado」という人物に語りかける形で進行します。語り手は「Desperado」が自分の感覚を取り戻し、心を開くようにと懇願しています。

「riding fences」や「queen of hearts」が意味するもの

楽曲「Desperado」の歌詞には、印象的な比喩表現が多数登場します。

「You’ve been out riding fences for so long now(お前がフェンスに座って長いこと経つよな)」というフレーズは、様々な解釈がなされます。「フェンスに座る」という表現には「日和見ひよりみ」という意味がありますが、牧場のフェンス沿いを一人で巡回し修理するカウボーイの孤独な仕事に由来するという説もあります。

この解釈によれば、「フェンスに座る」は「長い間一人で過ごし、孤立している」状態を指しています。歌の中の「Desperado」は、他人を人生に入れることを拒み、孤立して苦しんでいる人物として描かれているため、この「孤独」や「自分の殻に閉じこもる」といった意味合いが歌詞全体の文脈によく合います。「out」という単語は、「社会と離れて遠くにいる」というニュアンスを持っています。

「Don’t you draw the queen of diamonds, boy, She’ll beat you if she’s able. You know the queen of hearts is always your best bet(ダイヤのクイーンなんか欲しがっちゃダメだ 彼女がその気になりゃそっぽ向かれるぞ お前に似合うのはハートのクイーンだ 分かるだろう、金より心なのさ)」という部分は、トランプのカードを使った比喩です。「ダイヤのクイーン」は物質的な富や達成、あるいは手に入れることのできない理想化されたものを、「ハートのクイーン」は愛情や人間的な繋がりを象徴しています。

語り手は、「Desperado」が手に入れることのできない「ダイヤのクイーン」ばかりを追い求めず、既に身近にあるかもしれない「ハートのクイーン」、つまり愛情や人間関係を大切にするべきだと伝えているのです。これは、達成だけを追い求める人生の虚しさと、愛情の重要性を説く楽曲の主要なテーマと繋がっています。

さらに、「Your prison is walking through this world all alone(お前にとってこの世を一人きり生きるのは 監獄みたいなものなんだぞ)」という歌詞は、孤独こそが「Desperado」にとっての牢獄であると表現しています。自由を過度に追い求めた結果の孤立は本当の自由ではなく、苦痛を伴う監禁状態なのです。

「You better let somebody love you before it’s too late(誰かに愛してもらえよ 手遅れになる前にさ)」は、この孤独な監獄から抜け出し、誰かの愛を受け入れることの切実さを訴えています。このフレーズは、人生における人間関係や愛情の大切さを再認識させる力強いメッセージとなっています。

レコーディング秘話 ドン・ヘンリーの後悔

「Desperado」は、ロンドンのアイランド・スタジオで録音されました。このレコーディングにはロンドン・フィルハーモニー管弦楽団のミュージシャンが参加しており、ジム・エド・ノーマンがストリングスのアレンジを担当しています。

ドン・ヘンリーは後にこの時のレコーディングについて語っており、自分が最高の歌唱ができなかったことを後悔していると明かしています。広くて反響するスタジオ、そして退屈している様子のオーケストラのミュージシャンたちに囲まれて、非常に威圧感を感じたそうです。

プロデューサーのグリン・ジョンズがアルバムを迅速かつ経済的に制作しようとしていたため、曲のテイク数が4〜5回に制限されていたことも、ドン・ヘンリーの心残りとなっています。オーケストラのメンバーは演奏していない間、チェス盤を持ち出して遊んでいたというエピソードも残されています。

一方、ランディ・マイズナーは、この曲の冒頭のコード進行のアイデアを出したのは自分だと主張しています。しかし、彼の名はクレジットされておらず、著作権使用料も受け取っていません。

楽曲の評価と時代を超えた影響

「Desperado」はシングルとしてリリースされることはありませんでしたが、リンダ・ロンシュタットによるカバーバージョンが1973年にリリースされ、彼女のバージョンを通じてより多くのリスナーに知られるようになりました。ドン・ヘンリー自身も彼女のバージョンを高く評価しており、「非常に痛切で美しい」と述べています。

その後も、カーペンターズジョニー・キャッシュケニー・ロジャースクリント・ブラックダイアナ・クラールなど、数多くのアーティストによってカバーされています。これらのカバーは、楽曲が持つ普遍的な魅力と、様々なスタイルで表現できる多様性を示しています。

また、映画やテレビ番組など、様々なメディアでも使用されています。例えば、テレビドラマ『となりのサインフェルド』や映画『イン・アメリカ/三つの小さな願いごと』などで印象的に使われています。最近では、HBOのドラマシリーズ『Succession』や『Barry』でも楽曲が引用され、再び注目を集めました。

アルバム『Desperado』は、リリース当初は期待されたほどの商業的成功を収めませんでしたが、その後のアルバムのヒットに伴い売上を伸ばし、アメリカではダブルプラチナに認定されています。また、2000年にはグラミー殿堂入りを果たしています。

「Desperado」という言葉の奥深さ

楽曲やアルバムのタイトルである「Desperado」という言葉自体にも、興味深い背景があります。「Desperado」は、17世紀初頭に英語に登場した言葉で、「絶望した人」や「自暴自棄な人」といった意味で使われ始めました。

スペイン語の「desesperado」(絶望した)という言葉に由来しますが、英語の中で「desperate」という単語が変化して生まれた「疑似スペイン語」であると考えられています。元々は名詞として使われていた「desperate」が「desperado」というより強調された響きを持つ形に変化し、定着していきました。

時間の経過とともに「Desperado」は、アメリカ西部における「大胆なアウトロー」を指すようになりました。しかし、元々の「絶望」や「自暴自棄」といったニュアンスも失われていません。口語的には「恋愛において自暴自棄な人」や「孤独な人」といった意味でも使われることがあります。

イーグルスの楽曲における「Desperado」は単なる西部のアウトローというだけでなく、孤独や絶望を抱え、人間関係から隔絶された現代人の心の状態を映し出す多層的な言葉として機能していると言えるでしょう。

時代を超えて愛される理由

イーグルスの「Desperado」は、リリースから長い年月が経った今もなお、多くのリスナーに愛され続けています。

ドン・ヘンリーの魂のこもったボーカルと、それを彩る美しいピアノとストリングスの調べ。ドン・ヘンリー自身はレコーディングに心残りがあるようですが、その繊細で表現力豊かな歌声は楽曲に深い感情と説得力を与えています。「あのヴォーカルは俺にとって最高の出来じゃない。もう一回やるチャンスがあればと願っている。でも、いいさ。リンダ・ロンシュタットが素晴らしく演ってくれたから」

次に、示唆に富んだ歌詞と普遍的なテーマです。孤独、心を開くことへの恐れ、物質的な追求と愛情の対比、そして誰かに愛されることの重要性といったテーマは、時代や文化を超えて多くの人々の心に響きます。聴き手それぞれの経験や心情によって、歌詞の解釈が異なり、個人的な共感を呼ぶことも、この曲の魅力の一つです。

アウトローというアルバム全体としてのコンセプトも、楽曲に一層の深みを与えています。アウトローの孤独や葛藤に、バンドメンバー自身のロックスターとしての葛藤や音楽ビジネスへのシニシズムが重ね合わせられているようです。この多層的な意味合いが楽曲を繰り返し聴きたくなる、飽きさせないものにしています。

イーグルスの「Desperado」はその歌詞、サウンド、タイトル自体が持つ多義性によって、聴くたびに新しく奥深い作品です。西部劇の登場人物のような「ならず者」に語りかける形を借りながら、現代社会に生きる人々の普遍的な孤独や心の葛藤、そして愛情の重要性を歌っています。この機会に、ぜひ改めて「Desperado」の世界に浸ってみてください。

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