- 不思議なママ友の秘密に迫る
- 「ささやかな頼み」から始まった悪夢
- 失踪の影を追う ステファニーの探偵活動
- 予想の斜め上を行く衝撃の真実
- 騙し合いの応酬 心理戦の行方
- ファッション、音楽、インテリア 映像で魅せる世界観
- 多彩な挿入歌
- Jean Paul Keller – Ça S’est Arrangé
- フランソワーズ・アルディ – さよならを教えて
- ブリジット・バルドー – ふたりの夏にさようなら
- Zaz – Les Passants
- Lou Bega – Mambo #5 (A Little Bit Of…)
- ブリジット・バルドー – 浜辺の物語
- Claudia Kane – Under My Skin
- ブリジット・バルドーとセルジュ・ゲンズブール – ボニーとクライド
- Jacques Dutronc – Les Cactus
- The Brady Bunch – It’s A Sunshine Day
- Mala Rodriguez – Fuerza
- M.O.P. – Ante Up (Robbin Hoodz Theory)
- フランス・ギャル – 娘たちにかまわないで
- LOLO – I Don’t Want To Have To Lie
- Cypress Hill – 3 Lil’ Putos
- Orelsan – Changement
- No Small Children – Laisse Tomber les Filles
- 多彩な挿入歌
- 続編「アナザー・シンプル・フェイバー」 ステファニーの新たな人生
- まとめ
不思議なママ友の秘密に迫る
映画「シンプル・フェイバー」は、日常に隠された驚きとスリルを描いた作品です。このタイトルに込められた「ささやかな頼み」という意味は、物語の始まりからは想像もつかない展開へと観客を誘います。平凡なシングルマザーと謎めいたキャリアウーマン、まったく対照的な二人の出会いが、予測不能なミステリーの扉を開くのです。
単なるミステリーやサスペンスにとどまらず、コメディ、ドラマ、ブラックユーモアといった様々なジャンルが巧みに織り交ぜられていて、観る人を飽きさせません。
「ささやかな頼み」から始まった悪夢
物語の中心にいるのは、コネチカット州ウォーフィールドに住むステファニー・スマザーズ(アナ・ケンドリック)です。彼女は夫を事故で亡くし、その保険金と、育児や料理に関するVlog運営で生計を立てています。学校のイベントにも積極的に参加する、絵に描いたようなお人好しシングルマザーとして登場します。
そんなステファニーが、息子の同級生の母親であるエミリー・ネルソン(ブレイク・ライヴリー)と出会います。エミリーはファッション会社のPRディレクター。洗練されていてエレガント、そしてどこかミステリアスな雰囲気を纏っています。高級車に乗り、立派な豪邸に住んでいますが、実は家計は破産寸前という秘密を抱えています。
対照的な二人ですが、マティーニを片手に午後のひとときを過ごすうちに、お互いの秘密を打ち明け合うほど親密になります。エミリーは夫との性的な経験や経済的な悩みを、ステファニーは自身の過去に関わる衝撃的な秘密を告白します。
二人の関係が深まる中、ある日エミリーはステファニーに「ちょっとしたお願い」、つまり「ささやかな頼み」をします。それは息子のニッキーを学校に迎えに行ってほしいというもの。ステファニーは頼みを快く引き受けますが、それが全ての始まりでした。エミリーは息子を預けたまま、突然姿を消してしまったのです。
失踪の影を追う ステファニーの探偵活動
エミリーの突然の失踪に困惑したステファニーは、その行方を追いはじめます。エミリーの夫であるショーン(ヘンリー・ゴールディング)と連絡を取り合い、捜索活動を進め流のです。ステファニーは自身のVlogで視聴者に情報提供を呼びかけたり、エミリーの勤務先を訪ねて上司のデニス(ルパート・フレンド)に話を聞いたりします。エミリーのオフィスに侵入し隠されていた写真を見つけ出すなど、その行動力は一見お人好しなステファニーからは想像できないものです。
捜索が続く中、ミシガン州の湖でエミリーの溺死体が発見された悲しい知らせが入ります。遺体にはエミリーの特徴であるタトゥーがあり、彼女と断定されました。夫のショーンは悲しみに暮れ、ステファニーはそんな彼を献身的に支えます。悲しみを分かち合ううち、ステファニーとショーンの距離は急接近し、恋人のような関係になります。
亡くなったはずなのに、ステファニーの周囲ではエミリーの影を感じさせる出来事が頻繁に起こります。エミリーの息子が母親を見たと話したり、プレゼントされたブレスレットが見つかったりするなど、奇妙な現象が続くのです。エミリーの豪華な家でも処分したはずの衣類が元に戻されるといった不可解なことが起こり、ステファニーはエミリーが生きているのではないかという疑惑を抱きはじめます。
この疑惑を機に、ステファニーはエミリーの過去を本格的に調べ始めます。エミリーの裸体画から画家(リンダ・カーデリーニ)にたどり着き、エミリーが「クラウディア」という偽名を使っていたこと、彼女が詐欺師だったこと、双子の姉妹がいた可能性などを知ります。次に双子の姉妹の母親(ジーン・スマート)を訪ね、エミリーが過去に火事や父親の死が関わっていたことを突き止めるのです。ステファニーの探偵活動によって、エミリーの隠された人生が少しずつ明らかになっていきます。
予想の斜め上を行く衝撃の真実
物語が進むにつれて明らかになる真実は、観客の予想を大きく裏切ります。湖で見つかった遺体は、実はエミリーの双子の妹フェイスでした。エミリー(本名ホープ)と妹のフェイスは、16歳の時に自宅に火を放ち、虐待していた父親を殺害して逃亡していました。
妹のフェイスはその後薬物依存となり、エミリーを脅迫するようになります。妹からの度重なる脅迫に耐えかねたエミリーは、自らの死を偽装するため妹を湖で溺死させ、その遺体を自分に見せかけたのです。亡き夫の保険金で生活するステファニーの話を聞き、自らも保険金を得るためにこの計画を実行したと考えられます。
驚くべきはエミリーだけではありません。ステファニーもまた、一見善良なイメージとは裏腹に暗い秘密を抱えています。父の葬儀で出会った腹違いの兄と関係を持っていたこと、その兄と夫が共に事故死した自動車事故に、ステファニーが関与していた可能性が示唆されます。お人好しと思えない行動力や、時に見せる冷徹さ、エミリーの夫であるショーンと関係を持つに至る経緯も、彼女の二面性を示しています。
騙し合いの応酬 心理戦の行方
生きていたエミリーが姿を現し、物語はさらに加速します。エミリーはステファニーとショーンの関係を知り、彼らを自分に協力させようと画策します。保険金を巡るエミリーとショーンの攻防、そしてエミリーの嘘を見破ったステファニーの反撃が始まります。
ステファニーはショーンとも手を組み、エミリーから自白を引き出すための巧妙な計画を立てます。二人の演技によってエミリーは追い詰められますが、エミリーもまた彼らの計画を見抜いており、さらにその上を行こうとします。
物語の終盤は、三つ巴の騙し合いと心理戦が展開されます。ステファニーは自身のVlogという現代的なツールを使い、決定的な瞬間をライブ配信するという大胆な方法に出ます。自身のブログを通してエミリーの犯罪を全世界に明らかにしたのです。最終的にエミリーは逮捕され、父親と妹の殺害、そして元夫への殺人未遂の罪で刑に服することになります。
このスリリングな展開は、観客を最後まで画面に釘付けにします。誰が嘘をついているのか、誰が真実を語っているのか、二転三転する状況はジェットコースターに乗っているような感覚をもたらします。
ファッション、音楽、インテリア 映像で魅せる世界観
「シンプル・フェイバー」はストーリーだけでなく、そのスタイリッシュな映像表現も大きな魅力の一つです。特にブレイク・ライブリー演じるエミリーのファッションは非常に印象的です。彼女は作中で様々なパンツスーツを着こなし、そのエレガントでクールな魅力を際立たせています。この男性的な衣装は、エミリーのキャラクターの強さやミステリアスさを表現する上で効果的な役割を果たしています。
一方、アナ・ケンドリック演じるステファニーのファッションも注目です。物語の序盤では手作り好きのママらしい、ほっこりとした服装が多いステファニーですが、エミリーと関わるにつれて徐々に洗練されていきます。物語の展開や二人の関係性の変化に合わせてファッションが変化していく様子は、視覚的なレトリックとしてキャラクターの内面を表しています。衣装デザイナーのレネー・アーリック・カルファスは、クリスチャン・ルブタンやラルフ・ローレンといったハイブランドを使用し、登場人物たちの感情を反映させています。
登場人物たちの住む家も対照的に描かれます。エミリーの豪邸はモノトーンを基調とし、メタリックなアイテムやアートで飾られたモダンでスタイリッシュな空間です。生活感を排したクールなインテリアは、エミリーのキャラクターそのものを表しているようです。対してステファニーの家は、子どもの絵が飾られるなどポップで賑やかで親近感のあるインテリアです。これらの対比は、二人の背景や性格の違いを際立たせています。
多彩な挿入歌
本作にはフレンチ・ポップスが多く使われており、その選曲は「センスの塊」と評されています。オープニングからゾクゾクするような洒落た音楽で始まり、クールなミステリー やおしゃれな演出、ブラックユーモア を彩っています。
劇中で使用されている主な挿入歌は以下の通りです。
Jean Paul Keller – Ça S’est Arrangé
オープニングで使用され、軽快なリズムと男性ボーカルが特徴です。
フランソワーズ・アルディ – さよならを教えて
ステファニーがエミリーの家で踊るシーンに流れました。
ブリジット・バルドー – ふたりの夏にさようなら
エミリーがマティーニを作ってステファニーと乾杯するシーンで使用されています。
Zaz – Les Passants
エミリーがステファニーを再び家に招くシーンで流れ、テンポの良い音楽が楽しめます。
Lou Bega – Mambo #5 (A Little Bit Of…)
ステファニーが子供たちを車に乗せて歌うシーンに登場します。
ブリジット・バルドー – 浜辺の物語
ステファニーがエミリーの家でショーンのために食事を準備するシーンで使用されました。
Claudia Kane – Under My Skin
ステファニーとショーンが関係を持つシーンに流れるロマンチックな楽曲です。
ブリジット・バルドーとセルジュ・ゲンズブール – ボニーとクライド
ステファニーがエミリーの絵をしまって着替えるシーンで流れました。
Jacques Dutronc – Les Cactus
ステファニーがクローゼットを整理するシーンで使用され、ノリの良い男性ボーカルが印象的です。
The Brady Bunch – It’s A Sunshine Day
ステファニーがニッキーたちを車で送るシーンに流れるポップな楽曲です。
Mala Rodriguez – Fuerza
ステファニーが画家のダイアナに会いに行くシーンで使用されました。
M.O.P. – Ante Up (Robbin Hoodz Theory)
ステファニーが双子の存在を知って車で帰宅するシーンに流れ、力強いヒップホップが特徴です。
フランス・ギャル – 娘たちにかまわないで
ステファニーが夜にショーンを罠にかけるシーンに流れる、ポップで軽快なフレンチ・ポップスです。
LOLO – I Don’t Want To Have To Lie
ショーンがエミリーに電話するシーンに使用されています。
Cypress Hill – 3 Lil’ Putos
警察がダレンの家に踏み込むシーンで使用されたヒップホップ楽曲です。
Orelsan – Changement
エンディングの1曲目に流れ、フランスのラッパーによる楽曲です。
No Small Children – Laisse Tomber les Filles
エンディングの2曲目に流れ、フランス・ギャルの「娘たちにかまわないで」をアメリカの女性ロックバンドがカバーした力強い楽曲です。
これらの楽曲の多様性が、映画の多面的な魅力やジャンルを超えた要素を際立たせています。
続編「アナザー・シンプル・フェイバー」 ステファニーの新たな人生
衝撃的な事件の後、登場人物たちの人生は大きく変化しました。ステファニーはVlogの成功を足がかりに、パートタイムの私立探偵として活躍するようになります。才能を開花させ、30件以上の未解決事件を解決に導いたと語られています。
「シンプル・フェイバー」には続編「アナザー・シンプル・フェイバー」が製作されました。「シンプル・フェイバー」の監督であるポール・フェイグが再びメガホンを取り、主演のアナ・ケンドリックとブレイク・ライブリーも続投しています。さらに、ヘンリー・ゴールディング、アンドリュー・ラネルズ、バシール・サラフディン、ジョシュア・サティーン、イアン・ホー、ケリー・マコーマックといった前作のキャストも再登場します。
続編の舞台はイタリアの美しい島、カプリ島へと移ります。前作の事件から数年後、刑務所に収監されていたはずのエミリーがステファニーの前に再び現れ、イタリアでの豪華な結婚式に花嫁介添人として来てほしいと依頼することから物語が始まります。華やかな舞台で、新たな殺人や裏切りが巻き起こるようです。
「アナザー・シンプル・フェイバー」は、2025年3月にSXSW映画祭でプレミア上映され、同年5月1日からはAmazon Prime Videoで独占配信が開始されています。前作のファンにとっては待望の続編ですが、その評価は分かれているようです。前作ほどのミステリアスさが薄れたという意見や、一部の展開に賛否があるものの、ステファニーとエミリーの独特なやり取りは健在であるという声もあります。
まとめ
映画「シンプル・フェイバー」は、「ささやかな頼み」という日常的な出来事から始まり、想像を超えるミステリーへと発展していく予測不能な物語です。ブラックコメディ、サスペンス、ドラマといった様々な要素が融合し、単一のジャンルでは語り尽くせない多層的な魅力を持っています。
一見善良に見えるキャラクターが意外な一面を見せたり、先の読めない騙し合いが繰り広げられたりする展開は、観る人に常に新しい発見を与えてくれます。スタイリッシュなファッションやインテリア、洒落た音楽といった映像的な要素も、作品の世界観を深め、観る楽しさを一層高めています。
ミステリーやサスペンスに興味があるけれど、あまり重すぎる作品は苦手という方にもおすすめです。ユーモラスなタッチで気軽に楽しみながらも、その奥深い人間ドラマと予測不能な展開に引き込まれるはずです。
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