あの頃のときめきを再び 「小さな恋のメロディ」が教えてくれる大切なこと

映画

1971年に公開された映画「小さな恋のメロディ」は、今も当時の人々の心に輝き続ける不朽の名作です。幼いながらも純粋でひたむきなダニエルとメロディの恋物語は、観る者の胸をキュンとさせ、忘れかけていた大切な感情を呼び覚ましてくれます。

初めての恋、胸の高鳴り

物語の中心となるのは、小学生のダニエル(マーク・レスター)とメロディ(トレイシー・ハイド)の初めての恋です。まだ幼い二人の間には、打算や駆け引きといった大人の世界とは無縁の、純粋でまっすぐな感情だけが存在します。互いを見つめる眼差し、手をつなぐ時のドキドキ感、些細なことで喜び合う姿に、かつての甘酸っぱい記憶が蘇ります。初めて人を好きになるというかけがえのない経験を通して、二人は喜びや不安、その中にほんの少し、切なさを学んでいくのです。

あらすじ

このロマンティックなファンタジーは子供たちの視点を通して語られ、大人たちは脇役として描かれています。

映画の冒頭、街に朝焼けが広がる中、ビージーズの「イン・ザ・モーニング」が流れます。

ダニエル・ラティマー(ダニー)は、母親の勧めで学校のブラスバンドに入ったばかりの転校生です。きちんとした制服を着ているダニーを校長は褒めますが、ダニーは母親に従っただけで自分はなぜここにいるのかわからないと正直に答えます。一方、オーンショー(ジャック・ワイルド)はだらしない格好の生徒で、校長の目を全く気にしません。校長はオーンショーがウィスキーを飲んでいると疑っています。

放課後、母親が車で迎えに来たダニーにオーンショーは家まで送ってくれるよう頼みますが、自分の家を見られるのが恥ずかしく、一つ手前の通りで降ります。

家に帰ったダニーは父親にブラスバンドに入ったことを話しますが、父親は軽蔑する態度で応じます。むかついたダニーが読んでいる新聞に火をつけると、父親は怒って母親のせいだとなじります。母は母で、父親が子供の良い手本になっていないと反論するのです。

場面は変わり、メロディ・パーキンスの家庭が描かれます。厳格な母親、少し被害妄想気味の祖母、のんびりと優しく面白い父親がいます。メロディは道端の露天商から、自分のワンピースと金魚を交換します。

ダニーは家で、友達に借りた雑誌のヌード画を無邪気に描いています。母親は心配し、絵を破ってしまいました。

一方、メロディは家でフルートの練習をしていますが、母親にアイスクリームのお金を父親にもらいに行くように言われます。メロディはビージーズの「メロディ・フェア」が流れる中、父親がいるパブまで街を歩いて行きます。

新しい一日が始まります。ダニーとオーンショーのクラスで、宗教の先生がイエスと弟子の話を始めます。生徒たちが全く反応しないため、すぐに諦めてしまいました。

休み時間、女子生徒たちは男の子たちの話で盛り上がっています。グループの中で一番年上に見えるミュリエルは、ボーイフレンドがいると明かします。彼女によれば好きな人とキスするのはとても気持ちよく、最長で5分間続けたことがあると言い、友達を驚かせます。

歴史の授業中、先生はナポレオンを破ったウェリントンの半島戦争について教えようとします。するとオーンショーがウェリントンがなぜスペインにいたのかを先生に尋ね、先生は「そこにいたからだ」とだけ答えます。オーンショーが理解できないでいると、先生は手を下ろして黙るように言い、ここは歴史の授業であり、20の質問をする番組ではないと説明します。

放課後、男の子たちは鉄道の線路に行き、ダニーは彼らを追いかけます。最初は仲間に入れようとしませんが、オーンショーが仲裁し受け入れられます。男の子の一人がオバルチン(ミロのような麦芽飲料)の缶と導火線で自家製爆弾を作りますが、爆発せず、みんなで笑います。その後、彼らはバス停に行き、ダニーとオーンショーは街の西へ行くことにします。

ビージーズの「ギブ・ユア・ベスト」が流れる中、二人は楽しい時間を過ごし、最後はダニーがタクシー代を払って家に帰ります。

ダニーはオーンショーを映画に誘いますが、オーンショーは断り、怒鳴って帰るように言います。ダニーは悲しみ、オーンショーは謝ります。ダニーのせいではなく、他に誰もしない祖父の世話をしなければならないのだと言います。ダニーは手伝いを申し出ます。

新しい授業の日、オーンショーは女子生徒のダンス教室に目を奪われます。彼女たちの動きが面白く、ダニーともう一人の友達を呼んでからかおうとしますが、ダニーはメロディが踊る姿をじっと見つめ、その瞬間に恋に落ちます。彼らはダンスの先生に見つかり、教室に連れて行かれます。先生は彼らに教訓を与えるため、三人のダンスの崇拝者を見つけたと女子生徒たちに言い、女子生徒たちは笑います。その後、先生はペギー、ローレン、ミュリエルの三人の女子生徒を呼び、男の子たちにダンスを教えるように言います。男の子たちはぎこちなく面白い動きをしますが、これによりダニーはメロディをより近くで見ることができます。

ダニーとメロディは”恋”に落ちます。ある日両親に、二人は結婚したいと告げます。将来ではなく、今すぐに。両親や先生といった大人たちは二人を説得し、止めようとします。オーンショーも、メロディが自分のたった一人の友達を奪っていくと感じて反対します。

しかしその後、オーンショーと他のクラスメートは二人に加勢するようになります。彼らは人里離れた場所で結婚式を挙げようとしますが、先生たちが追いかけてきて阻止しようとします。子供たちは反抗し、車を爆破させます。オーンショーの助けを借りて、二人は線路上に在ったトロッコに乗って野原をどこまでも走って行くのです。希望に満ちた未来に向かって。

エンディングだけは何故か、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングです。

舞台となる1970年代のイギリス

映画の舞台は、1970年代のイギリスの風景です。ノスタルジックな街並みや、子供たちの遊び場となっている広大な自然、そして当時のファッションや音楽は、映画に独特の温かみと懐かしさを与えています。ビージーズの音楽が効果的に使用され、二人の恋をより一層ロマンチックに彩ります。この時代ならではの空気感が、物語の純粋さを際立たせているのでしょう。

根強い階級社会の国

イギリスは、歴史的に根強い階級社会を持つ国です。かつては貴族、地主、労働者といった明確な区分がありましたが、現代ではより複雑で流動的になっています。しかし、社会的な地位、収入、教育、そして何よりも育った環境や言葉遣い(アクセント)などが、人々の所属する階級を示す重要な要素となっています。

大まかに分けると、伝統的な階級区分としては以下のようなものがあります。

  • 上流階級(Upper Class): 世襲の貴族や大地主など、伝統的な富と権力を持つ人々。
  • 中産階級(Middle Class): さらに細かく分けられますが、専門職、管理職、ビジネスオーナーなど、比較的安定した収入と教育水準を持つ人々。
    • アッパーミドルクラス(Upper Middle Class): 医者、弁護士、大学教授など、高度な専門性を持つ層。
    • ミドルミドルクラス(Middle Middle Class): 教師、事務職、中小企業の管理職など、中程度の収入と安定した職業を持つ層。
    • ローワーミドルクラス(Lower Middle Class): 販売員、サービス業従事者など、比較的収入が低い層。
  • 労働者階級(Working Class): 肉体労働者や工場労働者など、賃金労働に従事する人々。

現代ではこれらの伝統的な区分は曖昧になりつつあり、経済的な成功によって階級が変化することも珍しくありません。しかし、依然として社会的な機会や人々の意識の中に、階級の影響は残っています。例えば教育においては、伝統的な私立学校に通うことが上流・中産階級の子弟に有利に働くことがあります。言葉遣いや趣味なども、所属する階級を示すサインとして認識されることがあります。

現代のイギリスでは、かつてほど階級が固定されたものではなく、個人の努力や社会の変化によって流動性があります。だからと完全に階級がなくなったわけではなく、社会構造や人々の意識の中にその影響が根強く残っています。映画の登場人物にも、それぞれ当てはまる階級があるのです。

子供たちの視点から描かれる世界

「小さな恋のメロディ」の大きな特徴の一つは、物語が子供たちの視点から描かれていることです。大人の世界をどこか冷めた目で見つめながらも、自分たちの小さな世界の中で精一杯生きるダニエルとメロディ。彼らの無邪気な行動や言葉は、時に大人たちの滑稽さを浮き彫りにし、観る者にハッとさせられる瞬間を与えます。子供たちの純粋な視点を通して描かれる世界は、私たちに大切な何かを思い出させてくれるのです。

友情と大人たちの葛藤

ダニエルの親友であるオーンショーの存在も、物語に深みを与えています。ダニエルとメロディの恋を応援しながらもどこか寂しさを感じている彼の姿は、子供ながらの複雑な感情を表現しています。ダニエルとメロディの親たちの反応や、学校の先生たちの態度など、子供たちの純粋な思いとは裏腹に、大人たちの間には様々な葛藤が存在することも描かれています。こうした対比が、物語をより多角的に捉えるための重要な要素となっています。

日本で大ヒットした理由

普遍的な初恋のテーマ

この映画の最大の魅力は、普遍的な初恋のテーマを描いていることです。誰もが経験したであろう、あるいは憧れる初恋のドキドキ感や切なさが、観る者の共感を呼び起こしました。大人になってからこの映画を観た人々にとっては、忘れかけていた純粋な感情を思い出すきっかけとなり、懐かしさとともに感動を覚えたのではないでしょうか。公開当時、映画を見た観客からの口コミが広がり、その評判がさらに多くの人々を劇場へと足を運ばせました。

1970年代のノスタルジー

映画が公開された1971年当時、日本では高度経済成長期を経て、人々の生活や価値観が大きく変化していました。そんな時代において、「小さな恋のメロディ」が描くイギリスの田園風景や子供たちの素朴な生活、そしてビージーズの音楽はが新鮮で魅力的に映ったのです。1970年代という時代そのものが、後年になって一種のノスタルジーとして語られるようになり、映画の再評価にも繋がったと言えるでしょう。

主演二人の魅力と子供たちの演技

マーク・レスターとトレーシー・ハイドという、当時まだ幼かった二人の自然で愛らしい演技が、観客の心を掴みます。ぎこちないながらも一生懸命な二人の姿は微笑ましく、彼らの恋を応援したいという気持ちにさせました。ジャック・ワイルド演じるオーンショーの存在も物語に深みとユーモアを加えており、子供たちの世界をリアルに描き出す上で重要な役割を果たしました。

ビージーズの音楽

映画全編に流れるビージーズの音楽も、作品の魅力を高める大きな要素です。「メロディ・フェア」や「イン・ザ・モーニング」といった楽曲は、映画のロマンチックな雰囲気を盛り上げます。ビージーズの甘く切ないメロディーは、映画の映像と相まって、忘れられない印象を与えました。当時、日本でもビージーズは人気があり、彼らの音楽が映画のヒットを後押ししたと考えられます。

時を超えて輝く普遍的なメッセージ

「小さな恋のメロディ」は初めて人を好きになるという普遍的な感情を通して、純粋さ、勇気、そして大切なものを守り抜くことの尊さを教えてくれます。観終わった後きっとあなたの心にも、温かいメロディが響いていることでしょう。

 

いさぶろう
いさぶろう

映画評論家の淀川長治さんによれば「どの映画にも見所はある」。映画というのは出演者や監督だけで成り立たない、総合芸術(娯楽)です。脚本、演出、カメラワーク、照明、セットデザイン、効果音、編集等、様々な要素からできています。

私にとってこの映画の「見どころ(聴きどころ)」は、一にも二にもビージーズの音楽です。記事にしようと本編を復習しましたが、”恋”の映画ってやっぱり苦手なんだなぁ。こっ恥ずかしくなってしまうのです。同年代にはサントラ盤とか買って、夢中な子も多かったですが。

唯一ハマったのは、ダニー一家がハムを無心に食べるシーン。おばあちゃんの「ハムは骨付きがおいしいわ」にたまらなくなり、さっそく真似したものです。イギリスの食文化が実に”アレ”なのを知ったのは、後年の事でありました。

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