フランスの作曲家ジョルジュ・ビゼーが手がけた劇付随音楽「アルルの女」は、アルフォンス・ドーデの戯曲のために作曲されました。美しい旋律と情熱的なリズム、そしてどこか物悲しい雰囲気の漂うこの作品は、今日でも多くの人々に愛されています。
生まれた背景とドーデの戯曲
「アルルの女」は、1872年にパリのヴォードヴィル劇場で初演されたドーデの戯曲のために作曲されました。南フランスのプロヴァンス地方を舞台に、一人の青年フレデリと決して姿を現さない謎めいた「アルルの女」との間で繰り広げられる、愛と悲劇の物語です。
ビゼーは、この劇の各場面を彩るための音楽を作曲しました。劇自体はそれほど成功しませんでしたが、ビゼーの音楽は高い評価を受け、特に第1組曲と第2組曲は独立した管弦楽曲として演奏されています。
心を捉える旋律の数々
「アルルの女」の魅力は何と言ってもその美しい旋律にあります。誰もが一度は耳にしたことがあるであろう「アルルの女」第1組曲より「メヌエット」の優雅さ、同じく第1組曲より「アダージェット」の深く心を打つ旋律は、聴く者の心を掴んで離しません。
第2組曲より「ファランドール」の力強く躍動的なリズムは、プロヴァンスの活気ある情景を彷彿とさせます。これらの旋律は、登場人物の感情や物語の情景を豊かに表現しており、音楽だけでもドラマティックな世界観が広がります。
第1組曲
ビゼー自身によって編曲された組曲で、劇音楽の中から特に人気の高い4曲が選ばれています。
第1曲:前奏曲 (Prélude)
* 劇音楽全体の序曲として書かれました。
* アルトサックス(またはメロフォン)による郷愁を帯びた旋律が印象的です。この旋律は、劇中で重要な役割を果たす「無邪気な人」である羊飼い・フリデリの心情を表しているとも言われます。
* 中間部では力強く情熱的な音楽が展開され、ドラマへの期待感を高めます。
* 全体的に、南仏プロヴァンス地方の風景や人々の生活を描写しているかのようです。
第2曲:メヌエット(Menuet)
* 元々は、劇中の第3幕への間奏曲として書かれました。
* フルートとハープによる軽やかで優雅な旋律が特徴です。
* 中間部では弦楽器が加わり、より華やかな雰囲気となります。
* 全体を通して、上品で愛らしい舞曲の趣があります。
第3曲:アダージェット(Adagietto)
* 第2幕への間奏曲として書かれました。
* 弦楽器のみで演奏される、美しく静謐な音楽です。
* 物思いにふけるような、内省的な雰囲気が漂います。
* 劇中の登場人物たちの心の葛藤や、運命の暗さを暗示しているとも解釈できます。
第4曲:カリヨン (Carillon)
* 劇中の教会の鐘の音を模した曲です。
* 冒頭、ホルンによって鐘の音が模倣され、次第にオーケストラ全体が加わって壮大になります。
* 祝祭的な雰囲気で、劇のクライマックスを予感させます。
* 力強く華やかな終結は、聴衆に強い印象を与えます。
第2組曲
ビゼーの死後、彼の友人であるエルネスト・ギローによって編曲された組曲です。第1組曲に比べてよりドラマティックで、情熱的な曲が選ばれています。
第1曲:パストラール (Pastorale)
* 穏やかで牧歌的な雰囲気を持つ曲です。
* フルートやオーボエなどの木管楽器が中心となり、のどかな田園風景を描写します。
* 劇中の登場人物たちの、つかの間の安らぎを表しているかのようです。
第2曲:間奏曲 (Intermezzo)
* 元々は劇中の第2幕への間奏曲として書かれました。
* 宗教的な雰囲気を持つ荘厳な音楽です。
* オルガンのような響きが特徴的で、劇の悲劇的な展開を暗示しているとも解釈できます。
第3曲:メヌエット (Menuet)
* 第1組曲のメヌエットとは別の曲で、劇中の第3幕への間奏曲として書かれました。
* より力強く、民族的な色彩が濃いメヌエットです。
* 中間部には、アルトサックスによる甘美な旋律が現れます。
第4曲:ファランドール (Farandole)
* プロヴァンス地方の伝統的な踊りのリズムを用いた、エネルギッシュな曲です。
* 「アルルの女」の劇中で最も有名な曲の一つです。
* 第1組曲の前奏曲の旋律と、プロヴァンスの古い民謡「王の行進」の旋律が組み合わされ、次第に高揚していきます。
* 圧倒的な迫力と熱狂的な雰囲気で、聴衆を魅了します。
ビゼーの「アルルの女」はその美しい旋律と洗練されたオーケストレーションによって、多くの作曲家や音楽ファンに影響を与えました。フランス音楽の豊かな色彩感や民族的な要素を取り入れる手法は、後の作曲家たちに受け継がれていきます。「アルルの女」はビゼーの代表作の一つとして高く評価されており、その普遍的な魅力は色褪せることなく、これからも多くの人々の心を魅了し続けるでしょう。

フランスは受刑者の苦痛を和らげる人道目的と称し、ギロチンを開発した国です。それまでは斧や刀が使われ、死刑執行人が未熟な場合は一撃で斬首できず、囚人の首に何度も斬りつけるなどしたそうです。想像するだに陰惨ですね。
親殺しとなれば車裂きの刑が採用されていたというから、スゴイもんです。
フランスの文化には、野蛮で残酷な美を感じることが多々あります。「アルルの女」の悲惨な物語と、あまりにも美しいビゼーの音楽との間に生じるギャップ。その落差の異文化性にこそ、私たちは惹きつけられるのかもしれません。
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